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林成蔚 加藤洋一 台湾不在の台湾有事論

林成蔚(財団法人國防安全研究院執行長) 加藤洋一(同研究院客員研究員)

「米台」協力の現状

 米台防衛協力は、1979年に制定された台湾関係法という米国の国内法が根拠となっている。この法律は、台湾有事に米国が必ずしも介入しない「戦略的あいまいさ」の象徴として語られることもあれば、米国による武器供与を含む米台のさまざまな安全保障協力の法的根拠として使われることもある。

 米台の防衛協力は、両国が断交した1979年以降、停滞していたが、1995~96年の第三次台湾海峡危機を契機に再び活性化した。台湾メディアの報道によると、現在では、戦略対話、防衛政策対話、軍種ごとの交流など重層的な接触が定期的に行われている。協議内容は機密だが、近年の米国による武器売却の中身をみれば、中国の全面的侵攻に耐えうる非対称戦力の構築に重点が置かれていることが明らかだ。また、蔡英文総統の最近の演説の多くは、非対称戦力構築と並んで、有事の際に動員する「後備戦力」(予備役兵力)強化に向けた改革、さらに国家と社会全体の強靭性の向上に頻繁に言及している。これも米国との協議の成果が反映されているとみられる。

 トランプ前政権のもとで武器売却は常態化され、蔡英文政権が2016年に発足してから、すでに計26品目、総額200億米ドルの武器売却が承認されている。ペロシ議長の台湾訪問後の9月2日にも、空対空ミサイル、対艦ミサイルに加え、監視レーダーシステムへの支援などを含む、総額11億米ドルのいわゆる「武器売却」が発表された。

 このほかの米国との防衛協力には、米軍による台湾軍の訓練もあるが、台湾政府はその実態を明らかにしていない。

 台湾との防衛協力は、米国の連邦議会でも超党派の支持を集めている。この原稿の執筆時点で、上院では「台湾政策法」(Taiwan Policy Act)が審議中だ。台湾を「北大西洋条約機構(NATO)非加盟の主要な同盟相手(MNNA)」と「同等の形で扱う」とするほか、2027年までに合計65億米ドルの軍事援助を提供するなどの内容で、1979年の台湾関係法制定以降、「米台関係を最も包括的に再構築する」として注目されている。

 ただし、武器売却をめぐっては、両者の思惑の違いものぞく。米国は、台湾が伝統的な戦力で中国に対抗することは難しいと見て、非対称戦力の強化に優先して取り組むよう強く働きかけている。売り渡す武器を非対称型に限定しようとしており、これには台湾政府と軍の上層部が異論を唱えている。非対称戦力に特化すると、封鎖戦やグレーゾーン事態などへの対処が難しくなるからだ。

 中台の緊張が高まるにつれて最近、米国内では「戦略的あいまいさ」から「戦略的明確さ」へと舵を切るべきだという議論が出てきたが、台湾は距離を置いている。同調すると中国を不必要に挑発すると非難される恐れがあるうえ、戦略をめぐる議論だけでは不十分と考えるからだ。

「戦略的あいまいさ」は、戦争抑止のための概念であり、それに伴う具体的な防衛計画はない。かつて米国が軍事力で中国を圧倒し、台湾がまだ民主化の初期段階で政治的に未成熟だった時代に作られたものだ。中国が台湾侵攻に踏み切った場合に、米国が軍事介入するかどうか、あらかじめ明確にしないことで、中国を抑止するとともに、台湾が「法的な独立」(de jure independence)を目指すことも防止しようとした。

 しかし、現在の中国は自らの国力全般に溢れんばかりの自信を持つに至った。米国の介入を阻止する戦略と能力の構築、そのための訓練も積極的に進めている。このような中国に対して、具体的な防衛計画を伴わない抑止戦略は不十分で、大きな効果は期待できない。

 台湾が独立に向けて暴走するのを抑止しなければならないという前提も、時代遅れだ。現在の民進党政権には、現状を超えて「法的な独立」を宣言しようという意図はない。

(原稿の内容は、國防安全研究院を代表するものではなく、筆者個人の意見です)


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林成蔚(財団法人國防安全研究院執行長) 加藤洋一(同研究院客員研究員)
〔リン・チェンウェイ Lin Chen-wei〕
1966年台北市生まれ。東京大学博士(国際関係論)。専門は比較政治学。台北駐日経済文化代表処代表特別補佐、台湾国家安全会議シニア・アドバイザー、台湾民主進歩党本部国際部長、北海道大学公共政策大学院特任准教授・教授、常葉大学教授などを経て、2020年より現職。

〔かとうよういち〕
1956年東京都生まれ。東京外国語大学卒業、米国タフツ大学フレッチャー・スクール修士課程修了。2015年まで朝日新聞記者。この間、米戦略国際問題研究所(CSIS)、米国防大学、北京大学で客員研究員。21年より現職。早稲田大学アジア太平洋研究センター特別センター員などを兼務。※國防安全研究院は台湾国防部傘下の研究機関。
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