大庭三枝 主体的なプレイヤーASEANの対外戦略

大庭三枝(神奈川大学教授)
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 2022年に55周年を迎えた東南アジア諸国連合(ASEAN)は、「特定の国に偏ることを避け、またどの国に対しても排除の姿勢を取らない包含的な外交を展開してきた」。多様な10ヵ国で構成される組織はどのようにこのスタンスを維持しているのだろうか。大庭三枝・神奈川大学教授が論じる。
(『中央公論』2023年1月号より抜粋)

包含的な外交

「グローバル・サウス」は、アジア・アフリカを中心とする途上国・新興国を指す言葉として多用され、その国際社会における影響力拡大に注目が集まっている。東南アジア諸国連合(ASEAN)を構成する10ヵ国は、その一角を占める。世界銀行の統計によると、今やこの10ヵ国のGDP(国内総生産)の合計は日本の7割(3兆3433億米ドル)に迫り、人口は日本の5倍以上(6億7333万人)に達している(2021年)。また2022年は、インドネシアがG20の議長国を、タイがアジア太平洋経済協力(APEC)の議長国を務めるなど、大きな国際会議や地域の会議の場で東南アジアのプレゼンスが目立った。

 米中間の戦略的競争が激化する中、東南アジアが草刈り場となりつつあるという言説が目立つ。確かに今、ASEAN諸国をめぐる両者のつばぜり合いが激しくなっていることは事実である。しかしながら、ASEAN諸国の主体性を無視した議論は現実を見誤る。

 むしろ、ASEAN諸国は地域秩序のあり方を決定づける鍵となる存在である。様々な域外国と連携や協力を深め、どこか特定の国に偏ることを避け、またどの国に対しても排除の姿勢を取らない包含的(inclusive)な外交を展開してきた。

 そして米中対立が深まる中でも、ASEAN諸国は一国レベル、あるいは一組織として、こうしたスタンスを維持している。米中共に、自国の優位性を確保し、自らにとって望ましい地域秩序を確立するためには、ASEAN諸国がどこまで同調してくれるかが重要である。その意味で、彼らは地域秩序のあり方を決定づける重要なプレイヤーなのである。

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