大庭三枝 主体的なプレイヤーASEANの対外戦略

大庭三枝(神奈川大学教授)

アメリカの安全保障

 そうした観点からすれば、もともとこの地域の安全保障環境の安定化に寄与してきた覇権国であるアメリカとの関係の維持や強化も彼らにとって重要である。22年5月、市場アクセス要素がない「インド太平洋経済枠組み」にASEANからラオス、カンボジア、ミャンマーを除く7ヵ国が参加を表明したのは、こうした彼らの思惑も影響しているだろう。また先日開かれた米ASEAN首脳会議で、両者の関係もCSPに格上げすることが決定された。

 ASEAN諸国がQuad(日米豪印4ヵ国の枠組み)やAukus(米英豪3ヵ国間の軍事同盟)といったミニラテラル(少数国間)な戦略的連携を見る目も複雑である。ASEAN諸国を含まない、かつ明らかに対中国を念頭に置いたこれらの枠組みの登場や強化が、東南アジアやそれを囲むインド太平洋地域の緊張を高め、軍拡の引き金になるといった批判的な見方もある一方、増大する中国の影響力を相対化するという観点から、これらの動きを肯定的に評価する傾向も思いのほか強い。

 シンガポールのシンクタンクであるユソフ・イサーク研究所(ISEAS)が毎年発表しているASEAN諸国のエリート層へのアンケート結果によれば、Quadの強化や協力推進に賛成が58・5%なのに対し、中立が28・5%、反対が13・0%であった。またAukusについて、増大する中国の軍事力に対するバランシングとして働くと回答したのが36・4%なのに対し、軍拡を促すと回答したのが22・5%、ASEANの中心性を損なうと回答したのが18・0%、核不拡散体制を弱体化するとしたのが12・3%であった。多様な反応が見られるが、増大する中国の力を相対化する枠組みとしての期待もうかがえる。


(続きは『中央公論』2023年1月号で)

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大庭三枝(神奈川大学教授)
◆大庭三枝〔おおばみえ〕
1968年東京都生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は国際関係論。著書に『アジア太平洋地域形成への道程』(大平正芳記念賞、NIRA大来政策研究賞)、『重層的地域としてのアジア』、編著に『東アジアのかたち』など。
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