大庭三枝 主体的なプレイヤーASEANの対外戦略

大庭三枝(神奈川大学教授)

中国への経済依存

 最近のASEANの動きのいくつかを取り上げ、その点を確認してみよう。17年のアジア開発銀行(ADB)の試算によれば、ASEANも含めたアジアの発展途上国が成長のモメンタムを維持するためには、30年までに年間1・7兆米ドルを超えるインフラ投資が必要である。ASEAN諸国は前述のように国によって発展程度が異なる。自国でインフラ整備の資金調達がある程度は可能であるという条件下で、パートナーを選ぼうとする国もあれば、まったくの外部資金頼みにならざるを得ない国もある。

 しかし、いずれにせよ各国にとって、一帯一路などを掲げてインフラ整備に投資や支援を行う意思を明確にしている中国の資金力は魅力的である。またインフラ整備に限らず、中国の対ASEAN投資は増大している。よって、中国とASEAN諸国との関係は、各国ごとに濃淡はあれども明らかに緊密化している。

 そうした彼らにとって、22年1月に発効した東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は、中国との緊密な経済関係を軸に経済統合をいっそう深化させる枠組みとして重要である。また21年11月、中国とASEANはそれまでの戦略的パートナーシップを包括的戦略的パートナーシップ(CSP)に格上げし、連携強化を謳った。

 しかしながら、経済を中国のみに過度に依存することへの警戒感はいずれの国でも強い。また、南シナ海における大規模な埋め立てや軍事基地の建設といったことに象徴される中国の覇権主義的な行動は、南シナ海問題の係争国の中でも特にベトナムとフィリピンとの関係を損なう要因として作用している。また、これはシーレーン(海上交通路)を含む海洋秩序全体の安定を重視するシンガポールやインドネシアといった係争国以外の国々にも反発を生み、中国を安全保障上の脅威とする見方を生じさせている。

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