安田峰俊 白紙革命は習一強崩壊の号砲か?――若者が揺さぶる中国のこれから

安田峰俊(ルポライター)
11月27日、新宿駅での集会の様子(筆者撮影)
 2022年の白紙革命(白紙運動)とは何だったのか? その内実と今後への影響について、ルポライターの安田峰俊氏が読み解く。
(『中央公論』2023年3月号より抜粋)

衝撃の光景

 2022年11月27日20時。私は新宿駅を早足で歩いていた。

 知人の中国人留学生から、彼らが西口地下広場で開く集会の告知画像をもらい、見に行くことにしていたのだ。もっとも、その前に別の用事があり、到着したのは開始時刻から1時間後だった。

 この時点で、私は彼らの動きにあまり期待していなかったのだ。だが、それはすぐ驚きに変わった。

「独裁政権に殺された人のために」
「FREE CHINA. NO XI JIN PING.」(中国に自由を、習近平にノーを)

 模造紙や段ボール紙に驚くべき内容の標語が手書きされていた。しかもメッセージを掲げていたのは、中国共産党と長年の敵対関係にある新宗教団体の法輪功や中国民主化団体の関係者ではなく、ごく普通の在日中国人の若者たちだ。

 人数は50~100人。多くは20代の留学生だろう。彼らは順番に習近平政権のゼロコロナ政策を強く批判する演説をおこなっていた。話の上手な人とそうでない人がおり、事前に準備することなく話しているように見える。やがて彼らのボルテージは上がり、全員でこう叫び始めた。

「共産党下台!」(中国共産党は下野せよ)
「習近平下台!」(習近平は下野せよ)

 足が震えた。この場にいる記者は私だけだ。在日中国人の若者が集団で体制批判を始めた最初の現場に、まさか自分が居合わせるとは。

 集会後に話を聞くと、彼らはこの日、ウルムチ火災の追悼(後述)とゼロコロナ政策への静かな抗議を目的に集まったらしい。だが、いざ蓋を開けると多くの参加者がいてテンションが上がり、即席の演説会と政権批判集会になったという。

 集会の開催はこの日の昼に決まり、仮決めのリーダーは開始時刻のわずか4時間前にやっと選ばれたそうだ。現場には自然発生的なイベントならではの熱気が漂っており、集会中に模造紙を広げて新しいスローガンを手書きする若者が何人もいた。

 2012年の習近平体制の成立以来、中国では習個人への権力集中が進み、監視社会化にともなう異論の封殺と個人崇拝のプロパガンダが広がった。その結果、言論の統制と市民の意見の硬直化が著しくなった。

 たとえ国外でも、一般の中国人が政治的な集会に参加したり、政権批判を口にしたりする姿はほとんど見られない。ゆえにこの日の光景は、異例中の異例であった──。

 11月末、同様の動きは中国国内外で同時多発的に起こり、「白紙革命」(白紙運動)と呼ばれた。
 運動はほどなく収束したものの、これまで盤石に見えた習近平政権を、大きく揺るがしたことは間違いない。

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