安中 進 独裁者はなぜ向こう見ずな戦争を起こすのか?――計量分析から考察する戦争(上編)
安中進(弘前大学助教)
ロシアがウクライナ侵攻を開始してから早くも1年あまりが経過した。この間に日本では、ロシア・ウクライナをめぐる地域研究や、質的・理論的な国際政治学の知見がメディアを席捲してきた。日々刻々と変化する情報を現地語で得るなど、こうした研究の知見は重要である。他方、海外では政治を計量的に分析する研究が盛んであり、国際的なジャーナルでも過去の戦争のパターンをデータから分析、検討した研究がいくつも発表されている。
(『中央公論』2023年4月号より)
(『中央公論』2023年4月号より)
- 戦争を計量的に分析する
- 戦争に強い民主主義国家
- イエスマンで固める独裁者のリスク
戦争を計量的に分析する
たとえば、計量的手法を用いた実証研究の大御所ダン・レイター(米エモリー大学)とアラン・スタム(米ヴァージニア大学)は、2022年3月、『ワシントン・ポスト』紙に「なぜ民主主義国家は専制国家よりも戦争に勝つのか」と題した記事を寄稿して反響を呼んだ。そこではその理由として、一つ目に、権威主義国家は民主主義国家と比較してリスキーな戦争を起こしがちであること。二つ目に、権威主義国家のリーダーは国内的に転覆される恐れがあるため、自身に権力を集中させて、下位将校などに権限を与えず、結果的に軍隊を弱らせること。三つ目に、権威主義国家のリーダーが周りにイエスマンを置くために、正確な情報が入らず、判断を誤りがちであることが挙げられている。
一方、日本ではこうした実証分析が世間に紹介される機会があまりにも少なく、質的・理論的な研究に偏りがちにも見える。闇雲に時代の潮流に乗れば良いわけではないが、データを用いた最先端の知見も参照しなければ、言論の幅を狭めてしまうだろう。そこで本稿では、レイターとスタムのように、ウクライナ侵攻で議論の的となっている民主主義や権威主義といった政治体制間の差異や同盟、核兵器をめぐる問題について、計量的な分析手法を用いた実証研究を紹介し、また考察してみたい。