安中 進 独裁者はなぜ向こう見ずな戦争を起こすのか?――計量分析から考察する戦争(上編)

安中進(弘前大学助教)

戦争に強い民主主義国家

 民主主義という政治体制は、多くの人々の意見調整が必要なため時間や手間のコストがかかる。また、平和志向が強いというイメージがあるため、意外にも思えるが、民主主義国家は戦争に強いことが知られている。は、先のレイターとスタムが1816年から1982年までの戦争のデータを用いて分析したものだ。

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 ここでは政治体制の自由度や民主化度を、Polityというスコアを用いて計測している。−10から+10までの指標の中で、−7以下を「専制(autocracy)」、−6以上+6までを「中間(anocracy)」、+7以上を「民主主義(democracy)」と定め、いずれの政治体制が戦争に勝利したかを分析した結果である。


 一般に、戦争を開始する側の方が自信をもって攻撃するため、政治体制の差異を問わず、開始側が勝ちやすい傾向が見られる。特に民主主義国家が開始した戦争は、全15回のうち14回が民主主義国家の勝利となり、民主主義国家が攻められる側に回った場合も、全19回のうち12回は勝利している。また、それ以外の中間的な国家や専制的な国家と比較しても、民主主義国家が戦争に勝ちやすい傾向が認められる。これは、民主主義国家が権威主義国家よりも経済的に豊かで軍事力があるという要因を考慮に入れ、その影響を取り除いて比較しても妥当である。


 レイターとスタムは今回のウクライナ侵攻でも、民主主義国家の強さを強調しているが、一方でウクライナが本当に民主主義国家の要件を備えているかについては不問に付している。その点では疑問の余地が残るだろう。しかし、より民主主義的な国が戦争に勝ちやすい傾向は認められる。


 過去を振り返ると、ヴェトナム戦争のような例外もあるが、第二次世界大戦では連合国側の多くが民主主義国家であり、イギリスとアルゼンチンのフォークランド紛争などでも、より民主化度の高い国が勝った例が確認できる。

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