前嶋和弘 分断とフェイクに揺れる大統領選挙――真贋の区別がつかない情報戦
真贋の区別がつかない情報戦
バイデンたたきのこのCMは、「生成AIを使って大きな話題をさらった初のCM」と後世に語り継がれるものになるのだろう。
ただ、そもそもがすべてAIによるでっち上げである。映像をよく見ると、左上には非常に小さな文字で「すべてAIで生成された」と書かれているが、気が付かない人がほとんどだ。「共和党全国委員会提供。どの候補も候補者陣営もこの広告を承認したものではない」と免責事項も表示するが、いかにもなおざりだ。あわせて比較的大きな文字で「バイデンをやっつけろ(BEAT BIDEN)」と書かれているから、政治広告であることは何とかわかる。
この選挙CMはまだ序章にすぎない。実は、アメリカではAIが生成したコンテンツを選挙に利用する際の法律も規則もなく、ソーシャルメディア事業者の自主規制も極めて弱いのだ。この状況のまま選挙戦に突入することになるのは必至といえる。
生成AIの利点は何といっても安価な点だ。何ら規制がないとすれば、共和党陣営も民主党陣営も、24年の選挙で広範に生成AIを使うことは間違いないと見られている。
ではどのように使われるのか。音声を合成することで対立候補に犯罪歴の告白や人種差別的な発言をさせる、実際には行っていない場所で演説したとする映像を流す、といったものが典型的な使い方となるだろう。すでに共和党予備選でロン・デサンティス(フロリダ州知事)陣営の選挙CMは、トランプ前大統領がソーシャルメディアに書き込んだ、実際には発言していない言葉を合成し、本人が話しているように見せかけた(https://www.youtube.com/watch?v=idS7xEZ6VBs)。有権者を混乱させるために、ニュース仕立てで対立候補に「私は選挙戦から撤退する」と偽りの告白をさせるような偽映像も出てくるかもしれない。
(中略)