前嶋和弘 分断とフェイクに揺れる大統領選挙――真贋の区別がつかない情報戦

前嶋和弘(上智大学教授)

選挙後の「本当のディストピア」

 24年の大統領選挙について、現時点で言えることは、民主・共和両党の指名候補がそれぞれバイデン、トランプで決まる可能性が高く、さらに大接戦となる見込みである点だ。


(中略)


 大激戦が予想され、トランプが返り咲く可能性もかなりある。その場合、1期目よりもさらに大きく既存の秩序を塗り替えると考えられる。気候変動政策が消え、ウクライナ戦争は強制終了、ロシアとの関係も復活する。北大西洋条約機構(NATO)脱退の動きも起こると見られている。何が起きるかわからないような状況が待っているかもしれない。

 ただ、その前の選挙期間中も、さまざまな偽情報が飛び交うのは必至だ。24年選挙では16年よりもさらに激しい「情報戦」が繰り広げられるだろう。民主主義の根幹である選挙を支える政治情報がこれほど脅かされている状況は、アメリカの歴史上、例がない。

 政治情報に対する信頼は、民主主義に対する信頼そのものだ。なぜなら、民主主義では人々は情報が確かであり、信頼できることを大前提として、自分たちが信じる方向性を選ぶ自由がある。その情報が正しくなければ、民主主義そのものも揺らいでいく。すでにトランプの大統領当選前から広がっていたポピュリズム、権威主義がさらに広がっていくという負のループが加速してしまう。これこそ、より深刻なディストピアである。

 実際にそうなってしまうのか。私たちはその見たくないものに戦々恐々としながら、アメリカの状況を見守るしかない。

(中略部分は『中央公論』2024年1月号で)

中央公論 2024年1月号
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前嶋和弘(上智大学教授)
〔まえしまかずひろ〕
1965年静岡県生まれ。上智大学外国語学部英語学科卒業。ジョージタウン大学大学院政治学部修士課程修了、メリーランド大学大学院政治学部博士課程修了(Ph.D.)。専門はアメリカ現代政治。著書に『アメリカ政治とメディア』『キャンセルカルチャー』などがある。
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