ガザ紛争、長期化の要因と停戦のシナリオ...オスロ合意からの「二国家共存」路線を再考するとき
(『中央公論』2024年7月号より抜粋)
ガザ紛争が起きてから200日以上が過ぎました。ハマスによる10月7日の越境攻撃を機に、イスラエル軍によるガザ地区全域を対象にした軍事作戦が続いています。なぜここまで長期化したのか。要因は大きく三つあると考えています。
一つはイスラエルが戦闘の継続にこだわる姿勢を貫いていることです。今回の戦闘は一貫してイスラエルの圧倒的優位で進んでいます。そのため、原則的にはイスラエルが戦闘を続ける意思を変えないかぎり終わりません。当初から掲げる人質の奪還とハマスの殲滅という目標が実現できるまで、イスラエルのネタニヤフ首相は戦闘をやめる決断を容易にしないでしょう。しかし、二つの目標の実現にはほど遠く、袋小路に陥っています。
対するハマスもイスラエルとの対決姿勢を崩していません。昨年の11月末に1週間にわたる休戦が実現しましたが、これは人質を軸にした交渉があったからです。今年3月から5月の初めにかけて行われた休戦・停戦に関する交渉でも、人質を入り口にせざるをえなかった。人質を解放したら、交渉する材料がなくなり、イスラエル軍がさらに大胆な行動に出ると危惧しているのでしょう。
長期化の二つ目の要因は、戦闘を継続するイスラエルをアメリカが強力に支えていることにあります。バイデン政権は、5月に入ってからイスラエルへの兵器の提供を一部止めることを公言したものの、この7ヵ月以上にわたる戦闘の中でイスラエルの姿勢を強固に支持し、武器と資金を豊富に提供してきました。それによって、イスラエルは一国で継続できる規模以上の戦闘を行うことができた。4月にあったイランとの衝突を乗り切ることができたのもアメリカによる強力なバックアップがあったからでしょう。そのアメリカの支持がイスラエルの政策を変えるほどまで弱まっていないのです。
三つ目は、国際社会から有効な働きかけができなかったことにあります。イスラエルが納得することを前提にした働きかけが主で、強制力を持って兵を引かせようとはしませんでした。もちろん南アフリカがイスラエルを国際司法裁判所(ICJ)に提訴したように、グローバルサウスと呼ばれる国々からの圧力はありました。また最新の動きとして、国際刑事裁判所(ICC)によるネタニヤフへの逮捕状請求も注目されます。一方でネタニヤフは、イスラエルが孤立すればするほど、我々に正義があるとして頑なな姿勢を貫くのに利用しています。その姿勢が維持できるのは、やはりアメリカをはじめ、日本を含む主要先進諸国は、イスラエルに対して強く圧力をかけないと見切っているからでしょう。