全面侵攻から4年、ウクライナ新大使に聞く
ウクライナの将来に向けて強固な安全保障体制が必要
黒川 岸田文雄元首相は「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と言いましたが、そのとおりです。核をもつ大国が突然隣国の主権や国境を無視して攻めることが国際的に許されたら、日本にとっても大きなリスクでしょう。
ロシアはプーチンの時代になってからも、ウクライナの主権や国境を認める条約に署名していますが、ほとんど意味をなさなかった。1994年の「ブダペスト覚書」では、ウクライナが核を放棄し、その見返りに米国、英国、ロシアが安全を保障しましたが、やはり役に立ちませんでした。
2014年のロシアによるクリミア併合の後、私はウクライナの元外相から「日本は日米安保条約があってうらやましい」と言われました。ウクライナもNATOのような強固な安全保障に入っておかなくては、将来的にも心配です。ウクライナは今後も交渉を続けるでしょうし、われわれG7加盟国も、強力にサポートする必要があると思います。
ルトビノフ 私たちも、引きつづきがんばらなくてはいけませんね。
黒川 もうひとつ、ウクライナも、ウクライナを支援する日本も、もっとグローバルサウス諸国に働きかけたらよいと思いますよ。というのは、長年、ソ連・ロシアから独立しようと闘ってきて、ようやく独立を果たしたと思ったら、またロシアが強引に奪い返しにきているわけです。つまり、ウクライナにとっては、独立戦争の継続でもあります。そのように訴えかければ、似たような経験をもつグローバルサウスの共感を呼ぶのではないでしょうか。
その上でウクライナにお願いしたいのは、汚職の撲滅です。以前に比べて減っているとはいえ、最近また大統領の側近にまで疑惑が生じています。こういうことがあると支援を依頼する際の説得力に欠けますよ。
ルトビノフ ウクライナにはびこる汚職の問題は、ソ連時代からずっとありました。そのため、「国家汚職対策局」と「特別汚職対策検察庁」という二つの機関ができました。現在、いかなる職位にある人物であっても「聖域」は存在せず、すべての人が法の下に平等であるという原則が実際に機能しています。
汚職の疑いにより、大臣級の高官が辞任に至った事実は、その象徴的な例です。事件の発覚は、汚職対策機関が実効的に機能しはじめた証拠ともいえます。これはウクライナにとって極めて重要な一歩であり、今後も汚職撲滅に向けた努力を継続していかなければなりません。
構成:室谷明津子 撮影:薈田純一
(『中央公論』3月号では、現状と和平プロセスへの見方、ウクライナ独立から現在に至る日本とウクライナの関係、和平に向けた日本の役割などについて論じている。)
ウクライナ・キーウ生まれ。キーウ国立大学卒業。在学中に龍谷大学に交換留学。1996年ウクライナ外務省入省。98〜2004年、07〜12年、15〜21年に在日大使館に勤務、大統領府のEU・NATO統合局副局長を務めたのち、25年7月より現職。
◆黒川祐次〔くろかわゆうじ〕
1944年愛知県生まれ。東京大学教養学部卒業。外務省入省後、在モントリオール総領事、駐ウクライナ大使・モルドバ大使(兼務)、衆議院外務調査室長、日本大学国際関係学部教授などを歴任。著書に『物語 ウクライナの歴史』がある。





