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定年前後はネット動画の独学より、大学の徹底活用がお得! 楠木新×櫻田大造

楠木 新(神戸松蔭女子学院大学教授)×櫻田大造(関西学院大学教授)
楠木新氏×櫻田大造氏
 楠木新さんはベストセラー『定年後』から最新作『定年後の居場所』までの著作で定年前後の生き方を追求しており、櫻田大造さんは『「定年後知的格差」時代の勉強法』の中で、知られざるシニアの大学活用術(図書館、プール、テニスコートや学割の活用、大学院でのマイペースかつマンツーマンの指導など)を紹介している。
 定年前後のシニアにとって、「学び」がどのような意味合いを持っているのか、大学を活用するとどんなメリットがあるのか、数多くの事例を知る二人が語り合った。
(『中央公論』2021年9月号より抜粋)

定年後の「勝ち組」はどこにいる?

楠木 定年後にどのようにして楽しく過ごすのか、それが私の一番の関心事です。学びは仕事ほどプレッシャーがなく、時間がある時に取り組めますから、いきいきと暮らすための大切なポイントになると思います。

 過去の人生を振り返る学び、仕事を総括する学び等々、いろいろな形がありえます。たとえば就職のために経済学部を卒業したものの、本当にやりたかった文学や歴史をいま改めて学ぶという人もいますね。私がそうした多くのシニアから話を聞いて思うのは、定年後の学びは自分好みの場で実践できるということ、そしていくら年を取っても学べるということです。

 以前、「京都SKYシニア大学」というシニアの学ぶ意欲を高めるための高齢者大学で講演の機会をいただいたことがあります。これは行政や京都府立大学、京都府立医科大学などが運営している学校ですが、大きな講堂いっぱいに集まったシニアの皆さんが元気なことに驚きました。

 コロナ前だったので、地下鉄の駅を降りて会場へ行くまでの道すがら、「どこへ旅行したんですか」「イタリアです。あなたはどこへ?」「いや、腰が痛くて、最近はあきませんわ」みたいな会話をしていました。学びのグループであると同時に、コミュニケーションを楽しんでいる。講座のパンフレットを見ると、京都はとくに大学の先生が多いこともあって魅力的な内容が多かったのを覚えています。

櫻田 私の地元にも、神戸・阪神地域在住で56歳以上なら誰でも参加可という「兵庫県阪神シニアカレッジ」があります。園芸学科、健康学科、国際理解学科という50人規模のクラスがあって、いろいろな大学の先生が講義をする。なおかつ同窓会やオープンキャンパスもあるそうです。

楠木 シニアの取材を通して気がついたのは、定年後の勝ち組はスポーツクラブと高齢者大学(笑)。いまスポーツクラブはコロナ禍で大変ですけれども。

櫻田 頭も体も使わないと衰えてしまいますよね。そうしたニーズを受けて、いま各大学が生涯教育事業に取り組んでいます。徳島大学の「人と地域共創センター」では、認知症の自覚症状がある初期発症者を対象に学習の機会を用意しており、知的刺激を与えると進行の防止につながるという研究結果も出ています(鈴木尚子「認知症高齢者への学習機会創出の意義」『徳島大学人と地域共創センター紀要』第29巻、2020年)。

楠木 定年後の一つのポイントは、「合わせ技一本」が可能だということです。定年前までは会社一筋で頑張っていた人であっても、月~金の朝から晩まで働くような現役生活は終わる。それを機に、仕事をしながら学びにも取り組むなど、さまざまな組み合わせを考えて、生活を充実させていけばいいのです。

 逆に言うと、学びに関心のない人は「やらんでええ」のです。自分の好きなことに取り組むのが定年後のポイントなので、仕事、趣味、地域活動、ボランティアなど、自分に合ったものを見つけることが大切です。

 ところで、櫻田さんは今年60歳ですね。私も還暦当時は一つの区切りと思って『定年後』を執筆したのですが、周囲はまだみんな現役でした。65歳になって気づいたのは、周りが皆現役を一旦降りますので、そこが大きな段差になるということ。この欠落感を何で埋めるのか、高校や大学の同級生や、会社の同期もみんな迷い始めています。

櫻田 60歳を超えると働き方は柔軟になりますよね。なおかつ年金が支給されると、時間という大きな財産が手に入ります。楠木さんが名づけたように、60~74歳はまさに「黄金の15年」であり、自己実現や自己満足のために時間という資産をどう使うのかを考えるにあたり、「学び」が浮上してくるのだと思います。

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