芳井敬一(大和ハウス工業社長/CEO)×原田ひ香(作家) お金を軸に人生を考える

芳井敬一(大和ハウス工業社長/CEO)×原田ひ香(作家)
原田ひ香氏(左)、芳井敬一氏(右)
「本から得る知識は、ネット情報とはまったく違う」と語る芳井敬一大和ハウス工業社長と、現在放送中のドラマ「三千円の使いかた」原作小説の著者・原田ひ香さんが、お金、住まい、家族の姿などについて語り合った。
(『中央公論』2023年2月号より抜粋)

家計をめぐる「経済小説」

原田 芳井社長が、ビジネス誌『PRESIDENT』の「有名トップ17人『生涯最高の1冊』」という企画で『三千円の使いかた』を選んでくださったと伺い、正直びっくりしました。


芳井 書店でまずタイトルを見て、面白そうだなと思って手にとりました。お小遣いの話ではないだろうし、どんな話なんだろう、と。目次を見たら、「目指せ! 貯金一千万!」「熟年離婚の経済学」など、興味深い言葉が並んでいる。何より第4話のタイトル「費用対効果」が心に響きました。それで、買って読み始めたら、すーっと入ってきた。お金の大事さがきちんと書かれているし、経済本よりわかりやすい。


原田 ありがとうございます。今まで経済小説というと、男性が主人公で、たとえば会社を買収するとか、大きな話が多かったと思います。でも『三千円の使いかた』は家族をめぐる家計の話。小説としては珍しいと皆さんに言われましたが、そこを評価していただけたのはうれしいです。


芳井 額が大きいか小さいかの違いはあるけれど、書かれていることは会社の経営と同じです。お金がなくなったら本社移転を余儀なくされるかもしれないし、この小説同様、僕ら経営者も「固定費を切り詰めよう」とよく言います。その固定費とは、電話代だったり、固定資産税や家賃だったり。家庭における住宅費と同じです。最近、都内から出ていく会社が多くなったのも、固定費を減らす意味合いがあるでしょう。さらに小説には、恋愛や家族のあり方も描かれている。さまざまな世代が登場するので、未来の風景も見える気がするし、同時に昔を懐かしく思いました。


原田 お若い頃のことを思い出したんですか。


芳井 そうです。僕は結婚した当初、大阪市で暮らしていて、当時大阪市には年収に応じて受け取れる住宅補助があったのですが、その住宅補助を満額もらえるほど、給料が少なかった(笑)。お小遣いは、最初は妻もちょっと奮発して3万円。ところが子どもが3人生まれ、子どもの習いごとが増えるたびにお小遣いの額が削られ、ついに2万円に。当時は営業職で、自分で車を運転して移動していたので、ご飯だけ持参してスーパーでおかずを買って、駐車場でランチを食べる生活でした。


原田 社長にもそういう〝節約時代〟があったんですね。


芳井 うちの両親は商売をやっていたので、夕食のおかずを見ると、子どもでも、「今、うちはあかんねんな」とわかる(笑)。そういう環境で育ったこともあり、家計の工夫をするのはあたりまえだった。この小説を読んで、そんなことも思い出しました。一方で、この先、歳を重ねるとどのくらいコストがかかるかといったこともよくわかるし、投資や年金についても具体的に説明されている。物語を楽しみながら、お金の知識も得られるところがいいですね。

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