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伊藤 聡 男らしさとスキンケアの相克――1990年代と現在の断層をめぐって

伊藤聡(ライター)

利得型と脅迫型

 化粧品メーカーが男性をターゲットとして製品を買ってもらいたい場合、また美容関連の書籍などに興味を抱いてほしいとき、説得の方法は主に二つある。

 まずは利得型。「女性に好かれる」だとか「ビジネスパーソンとして成功する」、あるいは「周囲からの印象がよくなる」などのプラス面を喧伝するやり方である。たしかにこの方法は一定の説得力を持つのだが、問題は肌の手入れに義務感が生じてしまう点だ。


「本当にこれでビジネスパーソンとして成功するのか」と疑いながらスキンケアをしても楽しくないし、多くの人は面倒になってやめてしまう。そもそも「スキンケアをすれば女性に好かれる」などという単純な話があるわけがない。利得型の惹句には、やや無責任なところがある。

 一方、脅迫型も古くから存在する。たとえば「35歳をすぎて、身だしなみを気にしない夫は妻に嫌われる」といった言い方だ。たしかに一瞬ドキッとさせられるが、生じる義務感は利得型より強く、結局は続かない。脅されて何かをしても、まず途中で嫌になってしまう。


 そのため多くの化粧品メーカーは、大敵である「義務感」をいかに生じさせずに美容に親しんでもらうかを工夫しているのだが、実際には利得型、脅迫型の二つからなかなか脱却できないのが現状だ。

 多くの男性は「スキンケアをすればどのような利益があるのか」を具体的に知りたがるので、その説明をしようとすると、どうしても利得型に頼ってしまうし、それで効果が出ないとつい焦って脅迫型に手を出してしまう、という悪循環がある。

 他方で女性の場合は、「使い心地が優れている」「香りがよい」「毎日のリラックスタイム」といった言い方で製品をアピールできる。製品そのもののよさを伝えることが優先されるため、ユーザーに利得をちらつかせたり、脅したりする必要があまりないのだ。

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