ノーベル賞候補の睡眠学者が教える 眠りの新常識と科学的快眠術

柳沢正史(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構長・教授)

「90分の倍数で起床」は根拠なし

――ノンレム睡眠とレム睡眠の1サイクルが平均90分であることから、90分の倍数で起きると寝覚めがいいと言われています。


 誰が言い出したのかわからないのですが、都市伝説に近い話だと思います。というのもノンレム睡眠とレム睡眠の1サイクルが平均すると約90分というところまでは正しいのですが、その90分という数字が独り歩きしてしまっている。

 平均90分といっても、サイクルというのもおこがましいくらい、この数字は揺らぎます。同じ人の一晩の睡眠の中でも、たとえば1回目は1時間、2回目は2時間弱というふうに大きく変化するので、90分の倍数がうまくサイクルの区切りと重なるのか、全くあてにならないというのが一つ目の問題です。

 それから二つ目の問題はもっと根本的で、ノンレム睡眠とレム睡眠のサイクルの終わりごろに起きるとすっきり目が覚めるという話自体が、そもそもあまり根拠がないのですね。どの段階で起きるとすっきり目が覚めるのかというのは、実はまだよくわかっていない、難しい問題だというのが私の理解です。レム睡眠から起きても、不快な時は不快ですからね。一つだけはっきりしているのは、深睡眠と呼ばれるノンレム睡眠のN3ステージからいきなり起こされると、ほとんどの人が非常に不快に感じるということだけです。

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