ノーベル賞候補の睡眠学者が教える 眠りの新常識と科学的快眠術
柳沢正史(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構長・教授)
「ショートスリーパー」を目指すな
――成人の平均睡眠時間は7時間程度ですが、これを訓練して短くすることはできますか。
できません。平均7時間というのも全成人の平均であって、たとえば60歳と20歳ではだいぶ違ってきます。20歳だと平均睡眠時間は長く、必要睡眠量も8時間程度と思った方がいいでしょう。一方、60歳を過ぎるころになると、平均睡眠時間は7時間を切ってくる。加齢につれて、必要睡眠量は徐々に減っていくことがわかっています。
個々人の必要睡眠量は遺伝子レベルで決まっていて、一種の体質だと考えてもらってかまいません。生まれながらのものなので、変えることはできない。訓練すればショートスリーパーになれるという話は大噓で、睡眠不足で本来のパフォーマンスが発揮できない不健康な習慣を学んでいるに過ぎません。
――体質的なショートスリーパーはどのくらい存在するものでしょうか。
ショートスリーパーの定義によりますね。つまり何時間の睡眠で大丈夫なのか、ということです。
米国睡眠医学会が策定した睡眠障害国際分類の現行版には、厳密には病気ではないのですが、「ショートスリーパー」という項目が一応あります。それによると、体質的なショートスリーパーとは毎日6時間未満の睡眠で、昼間に眠気も感じず、休日に「寝溜め」もしない人、となっていますが、これは正直ゆるい定義だと思います。高齢になると、それくらいの睡眠で済む人はだんだん増えてきますので。
いわゆる本格的なショートスリーパー、つまり若いころから4、5時間未満の睡眠で本当に足りる人は、きわめて稀です。私の感覚では数百人に一人どころか、数千人に一人というレベルですね。自称ショートスリーパーのほとんどは、単なる慢性的な睡眠不足の人です。真似をしてはいけません。