楽天はアマゾンに勝てるのか
楽天は財閥!?
勝間 トラベル、金融、ポータルなど、「楽天市場」以外にさまざまな業種もお持ちですね。どのように統合していく予定ですか。
三木谷 まずはID、そしてポイントで統合していきます。実は「新しいスマートフォンのアプリを楽天グループみんなで考えて出そうよ」といったような技術やマーケティングに関しては、すでに横串が刺さっています。
ただ一方で、サイトのレイアウトなどお客さんの目に触れるところは、すべて同じにしてしまうとつまらない。証券会社は証券会社の面構えがあるし、銀行は銀行の面構えがあるし、楽天市場は市場の面構えがある。ここは少しずつ統一性を出していこうと考えています。
勝間 それぞれの企業が、それぞれの業界でシェアを伸ばしていますね。何が理由だと思われますか。
三木谷 やっぱり楽天ポイントやIDにブランド力がついてきたこと。つまり、「この会社は変なことはしない」「製品問題が起こったら責任を取ってくれる」という安心感を多くの人が持ってくれたのは大きいと思います。
また、単体企業の問題点は「顧客獲得コスト」なんです。証券会社であれ、銀行であれ、クレジットカードであれ、新規顧客を獲得するのは非常に難しい。でも楽天グループの場合は、会員注文情報等をベースにしているので、顧客獲得コストが格段に低い。これは大きなポイントだと思います。
勝間 戦後に「財閥解体」があり、日本の企業はかなり力が弱りました。財閥というのは、実は日本的なビジネスモデルだったと思うんです。システムの共通化、顧客の共通化、ノウハウの共有と。
三木谷 なるほど。
勝間 楽天はまさに現代の財閥ですね。
三木谷 うーん、どうでしょう。まあ、「財」はないけれど、ネット上の「閥」ぐらいにはなっているかもしれませんね。(笑)
勝間 そこで私が不思議に思うのは、なぜ三木谷さんは既得権益を持った人たちにいじめられないのかです。楽天くらい急激に業績を伸ばすと、普通は財閥と同じで潰されてしまいます。
三木谷 だから、最近はマスコミに出ないようにしてるんです(笑)。それは冗談としても、例えば、TBSの買収案件は、僕なりに丁寧に話を進めたつもりでしたが、残念ながら受け入れられなかった。会社として大きな損害を出したので、経営的には非常に反省しています。すべてが順風満帆というわけではありません。
でも、先ほどから「良くも悪くも中間」という表現が出ていますが、日本的な考え方もアメリカ的な考え方も分かるので、TBSに対しても別に恨みは残らない。「まあそういう考え方もあるのかな」と、あまり引きずらない。
勝間 三木谷さんは日本興業銀行出身ですから、日本的企業の持つ微妙な臭いも嗅ぎ分けられる。一方、元ライブドア社長の堀江貴文さんはそういう経験がありませんから、どうしても合理性だけで突っ走ってしまい、「この辺でやめておこう」といった微妙な機微には鈍感だったように思います。
三木谷 どうでしょうね(笑)。まあ、これはきれいごとに聞こえるかもしれませんが、「社内公用語を英語にする」という話にしても、やっぱり「日本を良くしたい」という気持ちが自分の中にすごくあるんですよ。これまでの何が問題だったのかを根本的に探って、それらを壊したあとには、そのうえで何をつくりあげるかまで考えたい。そうすると「中期的な手を打つ」というアプローチになる。だからあまり敵をつくらないのかもしれません。
英語社内公用語化の真の狙い
勝間 「社内公用語の英語化」を公表されてから一年ですね。効果はいかがでしたか。
三木谷 プラスとマイナスの両面があったと思います。やはり短期的なマイナスはある。でも、もう「やるしか道はない」と思っているので、やり切るだけです。
少し詳しくお話しすると、英語公用語化の最大のポイントはノウハウのシェアリングです。それが世界中のスタッフ間でできなければいけません。例えば、中国である技術が必要になったとします。そのときに、ボストンの技術者が「俺たちが似たようなものを開発したことがあるから参考にして」と情報のシェアができれば、ゼロから自分たちで開発したら半年以上かかる仕事を一ヵ月で済ませることもできます。それは英語で世界中の人が知識や技術をシェアしているからできることです。日本語では、日本人のタコツボの中で話が終わってしまう。これでは今後のビジネスは難しいでしょう。
それから、EC事業という業態では、良くも悪くも、日本では我々がナンバーワンですから、他社から学べることが限定的です。でも、世界を見渡せばさまざまなサービスがある。eBayのスマートフォン戦略はどうなっているのかとか、画素認識の技術は世界でどこがトップなのかとか。
だから社員全員に世界中のサービスについて勉強してほしい。そのためには英語の能力が必要です。
また英語公用語化で大きなプラスになったのは、買収案件が先方から舞い込んでくるようになったことです。これはあきらかに楽天が英語でビジネスをしているからですね。