楽天はアマゾンに勝てるのか

三木谷浩史(楽天株式会社代表取締役会長兼社長)×勝間和代(経済評論家)

負けているところ 勝っているところ

勝間 アマゾンの話が出たので、読者のみなさんが一番聞きたいと思っている話に入りたいと思います。ずばり楽天はアマゾンに勝てるのか。
 まず、一人のユーザーとして、楽天に軍配が上がると思っていることからお話ししますと、アマゾンと楽天ブックスでは、とにかく楽天ブックスのほうが「話が速い」ですね。例えば、メールの返事が三倍ぐらい速い。

三木谷 五倍ぐらい速くなるように頑張りますよ。(笑)

勝間 結局、アマゾンは「アマゾン・ジャパン」に過ぎないので、「本社にお伺いしてから」ということになる。グーグルも同じです。だから融通がきかない。でも楽天の場合は、著者が自分の本の販売ページをつくるにしても、画面のデザインを崩してくれたり、新しい機能を付け加えてくれたり、こちらの要望に対して非常に柔軟に対応してくれますね。

三木谷 アマゾンはスケールメリットを活かした効率性追求型の会社ですので、細かな注文には目をつぶるのが経営戦略的に当然だとも思います。でも我々は、「やりたい人がやりたいようにする」のが基本的な経営理念ですから、お客さんへの対応も違ってくるということですね。

勝間 でも一方で、厳しいことを言うと、書籍販売のシェアとしては、まだかなりの差がついていますね。一般的なイメージとしても、やはりウェブ上で書籍を買おうとすればアマゾンから買う人が多く、物品の購入については「楽天市場」を利用していたとしても、書籍を楽天で買うという人は少ないのではないでしょうか。

三木谷 確かにその通りです。アマゾンは書籍の販売から始まり、経営資源をそこに集中投下しました。一方、我々は、いろいろなお店が食品やファッション等本当にさまざまな物品を売る「楽天市場」に集中的に投資していましたし、書籍の販売自体が始まったのも二年ほど遅れています。現在の売上高の伸び率は、楽天ブックスのほうが高いと思いますが、その二年の間につけられた差はまだ消えていないと思います。

勝間 今アマゾンは本の売り上げよりも物販が伸びていて、物品販売の分野に資本を投下していると聞いています。これについてはどう見ていますか。

三木谷 アメリカでは、電子書籍も急速に進化・普及していますから、書籍販売を事業の中心としているのでは苦しいと考えているのでしょう。今の彼らの仮想敵は、リアル書店ではなくて、ウォルマートだと思います。

勝間 なるほど。そうすると楽天の仮想敵はイオンですか。

三木谷 ここは答えを濁したいところですが、うちも嗜好品販売から、一般的な消費財・生活財販売が中心になりつつあるのは間違いありません。
 先日、「あす楽」「楽天24」という速配サービスを始めたんです。これは楽天の持ち味であるバラエティ性も維持しつつ、スピードやクオリティも担保するのが狙いです。お客さんが物を買う動機はさまざまです。牛乳一つ買うにしても、「とにかく一番安いのを買う」という人もいれば、「このおやじがつくる牛乳はすごく美味しいんだよ」ということで買う人もいる。買う理由がさまざまなのだから、効率的でない部分は絶対に捨てたくない。それが「楽天らしさ」でもあるわけですから。

勝間 でも、その「楽天らしさ」を追求していくと、グローバル化してもスケールメリットが働きませんよね。人事交流やシステムの基礎的な力には働くんでしょうけど。

三木谷 そうですね。確かにアマゾン的な「規模の経済」は働かないかもしれません。でも我々の強みはそこではないと考えています。もちろん効率性を捨てているわけではありません。システムの効率化などやるべきことはすべてやります。ただ効率性だけを追い求めることはしないということです。それによって、グーグルやアマゾンが急激に成長しているときに、楽天はささやかな成長しかできないかもしれない。でも、人間の本質的な購買動機に寄り添っている我々のほうが、継続的な成長を見込めると考えているんです。長期的には十分に勝機があると思っています。
 そういう意味で、最初のご質問にお答えするとすれば、楽天のビジネスモデルは日本的でもあり、アメリカ的でもあると言えます。良い意味で「中間」を目指していきたいですね。

フェイスブックとは競合するか?

勝間 最近はSNS系の企業が台頭してきていますね。ツイッターにしても、フェイスブックにしても、顧客情報は十分すぎるほど握っているわけですから、EC事業の分野に進出してくる可能性は十分にあると思います。また楽天の得意な「コミュニケーション」という観点から考えても、手強い相手になるように思うのですが、いかがでしょうか。

三木谷 今のところは、競合するというより、「連携しよう」という話になっています。もちろん将来は分かりません。ただ今の段階で言えるのは、彼らは個人同士のコミュニケーションを手助けすることはできても、小さな店舗のマネジメントは得意ではありません。

勝間 まったく苦手でしょうね。エンジニア集団みたいなものですから。

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