楽天はアマゾンに勝てるのか
勝間 例えば日本人ばかり五人で会議をするときも英語で話すのですか。
三木谷 基本的に英語で話すようにしています。そうしないと英語を話す環境がつくれない。全員を海外留学させるお金もありませんから。
勝間 先日、「楽天 三木谷 英語」と入力して検索したら、「三木谷さんの英語は日本人英語でうまくない」みたいな記事がダーッと出てきたので、笑ってしまいました。(笑)
三木谷 そうですか(笑)。まあ、自分の英語がうまいと主張する気もありません。言いたいことが伝われば十分だと思っています。ビジネス英語はビジネス上の「用語」さえしっかり分かっていれば、そんなに難しくないんですね。誰でもできるようになる。そもそも楽天に入社してくるインド人も、中国人も、大体三ヵ月から六ヵ月で日本語がペラペラになる。日本人だって半年間、真剣に英語に取り組めば絶対に話せるようになります。下手でも、とにかく話す必要がある局面に追い込む。すると大変な勢いで上達しますよ。
勝間 管理職に対してはすごく厳しく課題を設定していて、TOEICの点数がある基準まで達しないと、解雇もあり得るという噂を聞きましたが。
三木谷 解雇はしませんよ。でも来年の三月から、降格があります。そろそろお尻に火がついた感じですかね。
国には期待しない
勝間 楽天は、この一○年間、年に何パーセントの成長をしてきましたか。
三木谷 一〇年間で平均すれば、三○パーセントくらいだと思います。
勝間 でも日本の名目GDPはマイナス成長です。この違いはどこにあると思いますか。
三木谷 具体的なビジョンとリーダーシップがあったかどうかが一番の大きな違いではないでしょうか。旗を立てないと、よほどの偶然でもない限り、そこには到達しません。フェイスブックもグーグルも会社設立時は分かりませんが、今は具体的な戦略の立案と執行をしているはずです。日本も、具体的な経済成長目標を掲げて、そこにたどり着くための戦略を練れば、まだまだ経済成長できます。だから政治家もポピュラリティを追いかけるのではなくて、「私の政策はこうだ。この政策でこれだけ日本を成長させる」とはっきり言う。それをベースに選挙をする。小泉純一郎さんの人気で実証されましたけど、国民は今もそういうリーダーシップを求めていると思いますね。
勝間 しかし一方で、小泉・竹中改革が今の失業をつくっているという話もありますけど。
三木谷 そうした日本の足を引っ張るようなことを言う人は、本当に迷惑なので、ご退場いただきたいですね。
日本は護送船団方式で高度成長してきました。私が勤めていた日本興業銀行はその典型的な形だったと思いますけれど、無理を誤魔化してきたツケをバブルで払うことになった。そこから官僚叩きが始まって、結局、「産業政策なんて議論してはいかん。基本的にはマーケットがすべてを決めればいい」という話になりました。でも、それなら今はマーケットがすべてを決めているかと言うと、そうではありませんね。株式上場にしても、M&Aにしても、規制だらけです。結局、過保護な市場主義をつくり、護送船団にもなっていない。それが今の日本です。こんなにビジネスのやりにくい国はありません。このままでは、製造も海外、資産も海外、ブランドだけ日本という企業だらけになってしまいます。つまり「日本企業」の冠は持っていても、タックス・ベースは海外に移ってしまう。それでは日本が空洞化してしまいます。だから今こそ経済モデルの変更が必要なのですが、そういう議論がほとんどなされない。
インターネットの普及は日本国民の目を開かせるチャンスだと思います。問題は、日本人はせっかく目の前に世界中の情報が転がっているのに、日本語のサイトしか読めないから、あまりインパクトがない。日本人というのは根本的には優秀だと思うんです。チームワークがある。勤勉だし、正義感もある。科学技術力も、ノーベル賞もこれだけ取っているわけですし、十分に持っています。光ファイバーもDVDも日本がつくってきた。電子マネーもそう。ただあまりにもマーケティングが下手過ぎました。結局、重要なのはコミュニケーション力です。それはニアリー・イコール英語力だと思っています。
経済が国際化している、コミュニケーションが国際化している、文化も国際化している中で、日本語だけで生きていこうとするのが、まず間違い。どんどん海外に出ていかないと。そういうトレンドをつくりたい。
僕は日本の公用語を英語にすべきだと言っているわけではありません。しかしながら、ほとんどの人が英語でも普通にコミュニケーションができるとなった瞬間に、一億三〇〇〇万人の思考回路が変わると思っているんです。だから楽天の英語化プロジェクトは、うちの社内的な戦略であるうえに、日本企業そして日本社会全体からみても重要な転換期の始まりだ――と。
勝間 秘かな革命なんですね。ダイバーシティへの第一歩ですね。
(了)
〔『中央公論』2011年6月号より〕