楽天はアマゾンに勝てるのか

三木谷浩史(楽天株式会社代表取締役会長兼社長)×勝間和代(経済評論家)

三木谷 楽天は「サービスカンパニー」と「テクノロジーカンパニー」の両方の側面で頑張る方針です。でも彼らが力を入れているのは、「カルチャー」と「テクノロジー」だと思うんです。だから今は、「サービスは楽天さんがやってよ」となっています。まあ、将来的には、グーグルがグルーポンを買収しようとしたように、いろいろな可能性があるでしょう。でも彼らは企業文化的に「サービス」には向いていないとは考えています。

ベストプラクティスは日本にはない

勝間 ではシステム開発についてはどのようにお考えですか。世界の大企業は、新しいシステムを導入するとなれば、プログラマーを数百人単位で突っ込んで、あっと言う間につくってしまいます。フェイスブックなどは、毎日毎日、機能が追加されたり、削除されたりしている。そうした中で、楽天はどう競争力を維持していきますか。サービスに力を入れれば入れるほど、システム改善の需要が出てきますよね。

三木谷 実は、システム改善への対応というのも、楽天がグローバル化している理由の一つです。先日、開発本部の幹部に三人、外国人を投入しました。それぞれ世界的なIT企業で活躍してきた、専門知識を持った人材です。やはり日本人の知識だけでは限界がある。ITに関して、世界のベストプラクティスは残念ながら日本にはない。だから販売拠点の展開のためだけでなく、「システムを開発するための人材を確保する」という視点からもグローバル化を進めています。ちなみに今、楽天グループ全体では約一五パーセントが外国人ですが、サーチエンジンの開発部署などは、七○%が外国人です。

勝間 なるほど。でもそうした世界的に優秀な人材が、グーグルやアマゾンではなくて、楽天に勤める動機はどこにあるのでしょうか。

三木谷 一つは、安定的な雇用があるからでしょうね。三、四年前にグーグルは数千人単位で人員をカットしましたが、楽天は、良くも悪くもそういうことはしません。落ち着いて働けます。それから、開発チームに入るような人はお金をもらえるかどうかよりも、自分の好きなことができるかどうかを重視していることが多い。我々はそれに応えているつもりです。グーグルなどでは、基本的に広告配信やサーチのシステム開発をしておしまいですが、楽天の場合は、「取引」が事業の軸なので、自分でつくったシステムの上で世界中の人が実際に売買して喜んでいるのを実感できる。それが嬉しいみたいなんです。

勝間 日本人でも仕事のできる技術者は、アマゾンにいたと思ったらグーグルにいて、いつの間にかモジラに......、とどんどん流れていますね。 彼らを見ていると、起業してまもなくの頃は面白がるけれど、「大企業になるとやれることが少なくなってつまらない」と言って他の会社へ移っていく印象があります。その点、楽天はこれまでも、これからも、「大企業化はしない」ということですか。

三木谷 いや、正直に言って大企業化しています。でも、うちの場合は他の大企業と比べて情報が格段にオープンです。企業ですから、部署対部署のいざこざとか、個人的なライバル関係とかはどうしてもある。でも、例えば、社員全員が参加する朝会では売り上げ情報などが幹部クラスだけでなく一般社員にまで公開されたりするんです。これはインサイダーの観点からは慎重な管理が必要になりますが、ワイワイガヤガヤみんなで経営をやっていきたいという方針です。チームワークを大事にしたい。外国人にも実はそういうのが好きだという人は多いんです。

勝間 でも、ワイワイガヤガヤでやる分効率が落ちて、給料は安く抑えられているわけですよね。

三木谷 確かにもっとも給料が高いレベルの人たちを比べれば、グーグルやアマゾンのほうが高いかもしれません。ただ、うちも平均的には相当高いと思いますよ。従業員は違うと思っているかもしれませんけど(笑)。必要な人材は、お金で引っ張ってこなくてはいけませんから、払うときは払います。昔の日本企業のように杓子定規にやる気もない。年功序列もまったくなく、フェアな制度を採用しています。ここはアメリカ的と言えます。でも「チームを重視する」ということで言えば、日本的かもしれない。アメリカにも、サウスウエスト・エアラインやスリーエムなどチーム重視の会社もあるので、一概に「日本的」「アメリカ的」と分けてはいけないかもしれませんけど。まあ、楽天は、良くも悪くも日本とアメリカの中間と言えるかもしれません。

勝間 すごく面白いです。ビジネスモデルも、会社の全体的な風土も、「良くも悪くも、中間ぐらい」なんですね。

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