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橋下「維新政治塾」に群がる人々

祝迫博(読売新聞大阪本社社会部記者)

出馬に備える医師から自分探し組まで......

 では、実際に維新塾に参加する塾生は、どんな人たちなのだろう。

 古松慶之さん(三十七歳)は弁舌爽やかなイケメンの医師。大阪府藤井寺市内のクリニックの副院長だ。塾生に選抜される際の面接で、維新議員から「衆院選で、どのくらいのお金を用意できますか」と聞かれ、「いますぐなら一三〇〇万円は大丈夫です」と即答した。さらに「大阪一四区から出たいです」と、自身の居住地を含む選挙区からの出馬希望を伝えている。政界に飛び込む決意をしたのは地域医療の崩壊を現場で目の当たりにし、医療制度を変える必要性を痛感したためという。

「川の下流(現場)で人を救うのも大切ですが、上流(制度)で人を川に投げ込んでいる悪魔をやっつけたいと思ったんです」

 政治への関心の赴くままに二〇〇九年十月から半年間、政権交代直後の民主党大阪府連の政治スクールに参加。だが「労働組合などに頼る民主党に本当の改革はできない」と見切りをつけ、みんなの党の政治塾に加わった。現在は、みんなの党の党員でもある。維新塾で受けた計五回の講義の感想を尋ねると、古松さんは、こう振り返った。
「医療制度という各論にこだわり過ぎていたとの思いに至り、いまは維新の一丁目一番地の統治機構の改革が先やな、と思うようになりました。やるべきことをやる。粛々と変えていけばいいんですよ」

 複雑怪奇な政治の現実を思えば、軽やか過ぎる理想論と言えなくもないが、この時、私が抱いたのは別の思い、「ああ、ここに『維新の戦士』がいる」という感慨だった。

 ただ、塾生全員が、古松さんのように、国政への挑戦を明確に思い描いているわけではない。奈良県大和高田市で、障害者の就労支援施設を運営するNPO法人理事長の樫根聖典さん(三十二歳)は立候補歴も特定政党との関わりもなく、親類に政治家もいない。

「政治には子供の頃から興味はありましたが、リアルだったのは、地元県議くらい。国会議員なんて想像もできませんでした」と話す。

 それが、なぜ維新塾に?

「友達に子供が生まれて、この子たちが大人になる頃、この国は財政が絶対に持ってないだろうとか、ソ連の崩壊も一瞬だったから、日本もその時は一瞬だろうとか......。抽象的な思いがあって、維新の公募を知り、人生の中でこんなことはそう何度もないだろうから、とりあえず行ってみようと」

 面接で選挙資金を聞かれた際は、「すぐには無理ですが、なんとか手当てします」と答えて、くぐり抜けた。

 首都圏の大学では商学部。「公認会計士や司法書士は肌に合わず、法律を一度勉強してみたくて」、関西の法科大学院に再入学。「司法試験の勉強中に、障害者福祉も面白そうかなと思って」、NPOの就労支援事業を二〇一〇年四月に開始。今春からはその運営をスタッフに任せつつ、「より知識を深め、社会福祉士の資格をとるために」、大阪府内の福祉系大学に編入した。

 政治に関心を持ちつつ、関わりは持たない。国の将来に不安を覚えつつ、「自分探し」を続ける。そんな政治の周縁を歩く人たちを引き込む力が橋下氏には、ある。樫根さんに、入塾式で最も心に残った橋下氏の言葉を聞くと、次の締めくくりのフレーズだった。

「みなさんと一緒に、一回こっきりのこの人生において、激しく熱い時間を過ごしたい。政治なんかで命をとられるわけじゃない。政治生命をかけるなんて、そんな薄っぺらいものはありませんよ。政治やめても、違う職業につけばいい。僕なんか、政治生命なんか二つでも三つでも捨ててやりますよ。違うんです。命をなげうつ覚悟を持って、日本国の未来、我々の次世代、子供、孫のため、激しく熱い時間を共にしましょう!」

 橋下氏にとって政治家は職業というより、特命を遂行する一時的な役回りでしかない。国家改造の大事業を四年やそこらでできるのか、との疑問はぬぐえないが、「期間を区切り、一緒に改革を」という呼びかけは、常に挑戦の場を探し求める樫根さんのような塾生の心を捉えて離さない。

 田中希代子さん(五十一歳)も立候補歴や政治活動は一切なかった一人だ。大阪生まれの大阪育ち。大阪以外の生活は、語学留学した米ニューヨークでの半年間だけという生粋の大阪人。現在は大阪・心斎橋のビルの管理責任者として働いている。

 入塾動機を聞くと、「大阪を元気にしたいという単純な思いなんです」と、少し照れながらも、橋下氏と永田町の議員との違いを踏まえ、答えてくれた。
「橋下さんって、喜怒哀楽がすごく出ますよね。(脱原発で)関西電力には怒りをぶちまけたし、滋賀県大津市のいじめ自殺の感想では泣いていたし、喜ぶ時はすごく喜ぶし。私たちと同じ生身の人間が政治をしているって感じなんです。それに比べて、永田町の政治家は存在がすごく遠い。橋下さんなら、政治と国民の距離を縮められるんじゃないかなって。あと、橋下さんは、まず身を削ってから、大手術をやろうとしてます。国会議員は、それもしないで消費増税とか言ってますが。公募区長も、八月に着任ですもんね。すごいスピードですよ。だから塾に入り、ボランティアでも何でもいいから、橋下さんの力になろうと思ったんです」

 いわゆる無党派層の田中さんは、妄信的な橋下支持者ではない。「文化政策や原子力政策ではちょっと考えが違う」と話し、客観的に橋下改革の課題を理解している。そういう人物から維新が支持を集める要因は、橋下氏固有のキャラクターであり、身を切ることから始める改革姿勢であり、スピード感であるようだ。

 こうした指摘に永田町の議員たちが反撃できない限り、次の衆院選で、維新塾が新たな政治家の供給源となることは間違いないだろう。

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