対立軸が消え、政治不信だけが残った

対談●経済成長ですべての争点を糊塗したツケ
吉田徹(北海道大学准教授)×飯田泰之(明治大学准教授)

飯田 衆院で二九四議席を持つ自民党に対抗する勢力はどうやったら生まれてくるのでしょうか。六〇議席を割り込んだ民主党が何らかの形で蘇って新たな対立軸になるのか。もしくは、自民党が衆参両院で過半数を占め、維新、みんな、共産、公明がほどほど奪い合うといった五五年体制に似たあり様に回帰するのか。

吉田 二大政党制、小選挙区制が維持されれば、どちらかの政党がこければまず間違いなく政権交代が起きるんですよ。自民党はそのことをよくわかっていて、敵失だけを静かに待って、政権与党に返り咲いた。次の衆院選では民主党が政権与党に返り咲く可能性がないわけではない。

 だから、民主党の課題は、ともかく生き残ること。生き残れば何とかなる。そのためには、当面、理念は後回しにしてでも身内をまとめておくことです。

飯田 民主党が目指すべきは中道ですね。中道左派政党として、社会保障の充実や環境対策の必要性などを説いておくことが必要だと思います。そこにこそ民主党の存在意義があるのですから。

吉田 同感です。インターネットを使った選挙運動も自公維で法案提出し、今夏の参院選から解禁されますが、政治と社会の新しいつながり方を考えるのは本来、民主党の仕事だったはずです。これまで保守の自民党に持っていかれてしまった。

 第三極が左右に割れるというシナリオもあります。自民が維新と組んで、民主が「生活の党」と組むといったように、二極のブロックを形成する可能性がないわけではない。そうした意味でも参院でどのような議席配分になるのかは重要な意味を持ってくるでしょうね。

 強調しておきたいのは、政治の対立軸は政治家や政党が主導して作るべきだと思っている有権者が多いのですが、対立軸とは第一義的には有権者が日々作り上げていくべきものです。自分の希望や欲望をいかに社会で実現していくのか──そのためには政治を動かすことが欠かせない。待っていても自分が望むような対立軸が降ってくると期待するのは幻想でしかありません。

政党は若者を政治化せよ

飯田 僕は既存政党には大きなチャンスの時期なのではないかと思っています。今の学生は政治化されることに抵抗感が薄い。政治の季節が終わった後、多くの学生たちは政党活動などに巻き込まれることに随分と抵抗が強かったものです。典型的なのは僕や吉田さんの世代。今の学生はずっとニュートラルなようです。

吉田 内閣府による青年の意識調査をみても、社会のためにコミットすることはいいことだ、とする若者が増えている。彼らを政治化する環境は整っている。それがすぐに投票行動に結びつかないにしても、政治サイドは彼らを政治化していかなければなりませんし、政党の自己革新にもつながる。

飯田 民主党には党員・サポーター制度というなかなか有権者にお得な制度があります。党員かそれに準ずるサポーターが民主党代表選に投票権を持つ。思いを一つにする全国の若者や団体が党員かサポーターになれば結構な影響力を行使できるんです。自民党の党員も同じ。ただし、民主党よりは党員資格が少々厳しいようですが。党員として政党を変える──こんなお得な制度、有権者がもっと積極的に利用したらいいと思います。

 民主・自民はもちろん、日本維新の会、みんなの党なども都市部の大学に支部を持つくらいの努力をしていい。そういうことをしないと極右団体や極左団体といった極端な任意団体に将来の支持者を取られかねないのですから。

吉田 ご指摘の通りです。若者の実存的不安に付け込んで彼らを政治化したのが一九三〇年代のファシズム勢力でした。そうさせてはいけない。だから、政党はいまこそ有権者の政治化に乗り出すべきなのです。

(了)

〔『中央公論』2013年5月号より〕

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