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民主主義は権威主義に劣るのか? コロナ下の政治体制を分析する 安中進

安中進(早稲田大学高等研究所講師)

政治体制と関係する様々な要因

 統計的推論における基本的な考え方の1つ「コントロール」とは、ある変数(民主主義度合など)が他の変数に与える影響を捉えるためには、それ以外の変数の影響を取り除かなければならない、とする考え方である。逆にいえば、他の変数の影響を取り除かない限り、説明される側の変数Y(死者数)と説明する側の変数X(民主主義度合など)との関係を正しく推定できないことになる。前掲の図1では、こうした他の変数の影響は、まったく考慮されていない。

 では、コロナウイルスによる死者数に影響を与える要因として、政治体制以外に、何を考慮すべきだろうか。おそらく真っ先に思いつく要因は、人口に占める高齢者の割合であろう。医学的に最も確実な重症化リスクの1つが高齢であることは、疑いを挟む余地がない。一般に、民主主義国家は、権威主義国家よりも、国全体の高齢化が進んでいることが知られている。ゆえに、政治体制に由来する影響を正しく特定するためには、高齢化の影響を取り除いて(一定にして)分析する必要がある。その他にも考慮すべき要因としては、各国の経済的な豊かさの違いが挙げられる。経済活動がより活発であるほど、そうした活動を制限するのに大きな負担がかかる、とも考えられる。民主主義国家は権威主義国家に比べて、平均して豊かであるため、その影響もコントロールする必要がある。

 さて、本研究で最も注目したい要因は、各国の政府が公表するデータの透明性である。コロナ以前から、例えばより透明な経済データなどを公表してきた国は、コロナ関連の指標もより信頼できるデータを公表している、と考えられる。他方、過去に透明性の高いデータを公表してこなかった国では、今回のコロナによる死者数や陽性者数についても、真実より過小評価されたデータを公表している疑いを否定できない。こうしたデータの透明性が政治体制の違いと深く関係していること、つまり民主主義国家の方が権威主義国家より透明性の高いデータを公表する傾向にあることは、ホリアー他が作成したHRV Transparency Indexを見ると明らかである(Hollyer et al., 2014)。それゆえ、データの透明性も、本研究において勘案するコントロール変数の重要な一角を担うことになる。

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 図2は、そのHRV Transparency Index(以下データの透明性と呼ぶ。横軸右にいくほど透明性が高い)と死者数のデータとの関係をプロットしたものである。直近のデータが存在しないので、2010年に作成されたデータを用いているが、より古いデータを複数年利用して分析しても結果が大きく変わらないため、特に問題にならならないと思われる。また、小国などデータが入手不可能な国もあり、プロットされている国の数が若干少ないが、それを差し引いても、この図2は、実に明瞭な結果を示している。そして、図1の政治体制指標と比較しても、近似する線の角度が急で、相関係数も0・65ほどまで上昇している。つまり、政治体制と死者数との関係よりも、透明性が上がるほど死者数が多く報告される傾向が、ここに強く見出せるのである。

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