スマート・ベニューの先進事例における新たな官民連携とスポーツ×デジタル化への期待

日本スポーツ産業の過去と未来 アフターコロナを見据えて(第3回)
矢端謙介(株式会社日本政策投資銀行 地域企画部担当部長《執筆当時》)
八戸市に整備されたアリーナ「FLAT HACHINOHE」(写真提供:FLAT HACHINOHE)
これまで第1回としてスポーツ庁創設までのスポーツ施設と産業化政策を、第2回はスポーツがもたらす社会的価値について論じてきた。最終回となる今回は、アリーナを核にした新たな官民連携、地域創生のスマート・ベニューを目指し、青森県八戸市に整備されたアリーナ「FLAT HACHINOHE」の事例を紹介しつつ、アフターコロナを見据えて、デジタル化に着目して活性化を図るスポーツ産業の変化の萌芽を見ていく。

新たな官民連携モデル「FLAT HACHINOHE

まちづくりや地域活性化の核となる「スタジアム・アリーナ改革」に取り組むスポーツ庁と経済産業省は、2025年までに20拠点の実現を掲げている。2021年6月、そのモデルとなる対象施設の第一弾として、「多様な世代が集う交流拠点としてのスタジアム・アリーナ」を以下の通り選定した。

「運営・管理段階」又は「設計・建設段階」の施設

1.ES CON FIELD HOKKAIDO(エスコンフィールドHOKKAIDO)【北海道北広島市】
2.FLAT HACHINOHE【青森県八戸市】 
3.横浜文化体育館【神奈川県横浜市】 
4.桜スタジアム(大阪市立長居球技場)【大阪府大阪市】
5.東大阪市花園ラグビー場【大阪府東大阪市】
6.ノエビアスタジアム神戸(神戸市御崎公園球技場)【兵庫県神戸市】
7.FC今治新スタジアム【愛媛県今治市】
8.ミクニワールドスタジアム北九州(北九州スタジアム)【福岡県北九州市】
9.SAGAアリーナ【佐賀県佐賀市】

「構想・計画段階」の施設

1.アイシンアリーナ(仮称)【愛知県安城市】
2.長崎スタジアムシティプロジェクト【長崎県長崎市】

本稿では、上記選定施設の中から、地域創生のスマート・ベニューとして青森県八戸市に2020年4月にオープンし、アリーナにおける新たな官民連携モデルを描く「FLAT HACHINOHE」の事例を紹介する。

青森県八戸市は、1997年から八戸駅西地区の土地区画整理事業を実施している。当地区は新幹線駅前に位置し、八戸西スマートインターチェンジや八戸環状線に近く、車でのアクセスが容易であり、広域交通結節点として恵まれた立地条件にある。しかし、核となる高い集客力を持つ施設がないため、分譲が進んでいない状況にあった。

八戸市は「氷都・八戸」ともいわれ、冬季の平均気温が低い一方で積雪量が少ないという気候の特性がある。このため、古くからスケート競技が盛んで、アイスホッケー競技人口は全国の1割を占め、全国的に高いスケート場の利用率を誇る。アイスホッケーの競技レベルは日本屈指で、アジアリーグアイスホッケーに所属する「東北フリーブレイズ」の拠点にもなっている。

ただ、「氷都・八戸」を代表する施設の一つであり、全国大会も開催される市内のアイスアリーナ「田名部記念アリーナ」は、老朽化等の理由により2020年3月末での閉鎖が決まり、代替施設の整備が喫緊の課題となっていた。一方で、東北フリーブレイズの運営企業であるスポーツ用品小売店大手ゼビオグループのクロススポーツマーケティング株式会社は八戸市内にホームリンクの建設を考えていた。

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