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日本のインターネットの父・村井純「日本のデジタル化政策は必ずしも失敗ではない。修正する仕組みも整った」

デジタル庁が進めるDXとその課題
村井純(慶應義塾大学教授)

地域の自治とデジタル情報共有化の狭間で

――デジタルインフラは整っていたのかもしれませんが、新型コロナの感染者数の報告に保健所がFAXを使っていたことに象徴されるように、現場でデジタル化が進んでいなかったため、いろいろな不都合が起こりました。デジタル庁はその点を改革していくのでしょうか。

 そこはもう少し分析的に考えたい。日本には非常に重要な概念として基礎自治体(市町村と特別区)があり、首長は全て選挙で選ばれます。基礎自治体は教育や医療、福祉や自然災害への対応など、地域社会に対して自律した責任を持っています。そのことと個人情報が結び付くように社会制度が設計され、中央省庁が大きな力を持ちすぎないようにするという民主主義の体系を作っています。

 例えば、1980年代のパソコンを使ったOA化は、自治体によってはかなり早く導入され、90年代まではそれなりに成功していたのです。ICT(情報通信技術)を導入したときも、それぞれの自治体の自律性のもとで自治や自由が認められた。つまり、IT化を進めた自治体もあれば、しない自治体もあり、結果的に自治体ごとにバラバラなシステムになっていたのです。

 そこで、2000年になって、基礎自治体の自律を尊重しつつ、インフラとして共有できるデジタル環境をどう作っていくかという課題に取り組み始めました。

 この過程で、個人の情報に関わる住基ネット(住民基本台帳ネットワークシステム)、教育、医療、福祉、自然災害などへの対応も課題になってきた。例えば、住基ネットを全国共通のコンピュータシステムで利用しようとすると、今の社会制度と齟齬が生じ混乱した。つまり、国民を守るという大事な使命と責任を持つ基礎自治体の自律性を尊重しつつ、国全体の責任でもある税や健康について共通のデータを流通させるための仕組みをどう構造的に組み立てていくか、という大きな問題が見えてきたわけです。

 この問題にはこれまでも取り組んできましたが、必ずしもうまくいっていなかった。その結果、例えば、昨年の10万円の特別定額給付金や、新型コロナワクチン接種の予約などにおいて、「うまくできた国もあるのに、なぜ日本はスムーズにできないのか」という批判を浴びることになりました。

 確かにうまくいった国もあります。ただ、人口規模や、行政システムの発生の起源は国ごとに違うので、単純に比較することはできません。スムーズにできた国は人口規模が小さいところや、トップダウンのシステムを作っているところが多い。しかし、日本では、全国の自治体を飛び越えて、トップダウンで一つのシステムを作ってきたわけではないし、日本の社会構造からいっても、それをやるべきではないと思います。

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