日本のインターネットの父・村井純「日本のデジタル化政策は必ずしも失敗ではない。修正する仕組みも整った」
(『中央公論』2021年12月号より抜粋)
- 利活用を妨げた厳しいレギュレーション
- パンデミックで必要に迫られて
- 地域の自治とデジタル情報共有化の狭間で
- 日本の民主主義と文化に根ざしたデジタル社会を
利活用を妨げた厳しいレギュレーション
――新型コロナの対応のなかで、日本社会のデジタル化の遅れを多くの人が実感することになりました。最大の原因は何だとお考えですか。
日本のデジタル化が他の国と比べて順調にいっていない、あるいは、本来あるべき姿に進んでいない面もありますが、順調な面もあるというのが公平な見方だと思います。
日本のIT戦略を振り返ってみると、「IT基本法」が成立したのが2000年。その後、官邸にIT戦略本部ができ、各省庁にまたがるIT戦略のミッションが進められた。当初のアジェンダはインターネットを誰でも使える社会環境を作ることで、この点については前倒しで進められた。特にインフラ面の整備は順調でしたが、その後の「利活用」の段階で二手に分かれました。
大企業を中心にした民間は、ITテクノロジーを使って発展してきた面がある一方で、中小企業や特定の業界はうまく利用できなかった。
例えば、金融関係や教育関係、医療関係などはうまくいかなかった。こうした業界はかなり厳しいレギュレーション(規則)を持っており、それに従わなければならない。指定の用紙に記入しなければならないとか、インターネットを使ってATMを動かす際には専用回線でなければならないといった縛りがあり、そのためには投資も必要になります。
オンラインバンキングができなければ、取引先は銀行に足を運ばなければならない。地方の中小企業は金融機関のルールに縛られている部分が多いし、インターネットによるシステムを取り入れていくこと自体への抵抗感もあった。こうしたことが連鎖的に影響して、あまりうまくいかなかったと思います。
行政サービスも、印紙や印鑑、何度も同じ書類を書かなければならないといったレギュレーションの問題でうまく動きませんでした。
私たちもこういった課題はわかっていたので、この20年間なんとか直せないかと仕掛け作りやアドバイスを続けてきましたが、なかなかうまくいかなかった。
しかし、この9月に施行された「デジタル社会形成基本法」と「デジタル庁」の創設で、これまでブレーキを踏んできた状況を修正できる仕組みが整ったと考えています。