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"非"立憲的な日本人 境家史郎

――憲法の死文化を止めるためにすべきこと
境家史郎

大量に存在する非立憲主義者

 では、4000人の憲法観はA、Bどちらに近いものであったか。

 回答の集計結果が図1である。「A(B)に近い」ないし「どちらかと言えばA(B)に近い」という回答をまとめて「A寄り(B寄り)」と呼ぶと、「A寄り」が計48%、「B寄り」が計34%になる。つまり、「A寄り」を非立憲主義者、「B寄り」を立憲主義者と単純に分類すれば、回答者の中では、非立憲主義的立場が明確に優勢であった。

40cd91877d0e459b666254612aaeefc47e1a0280.jpg図1:立憲主義者/非立憲主義者の割合

 厳格な立憲主義者である「Bに近い」を選択した人は全体の11%に過ぎず、言い換えると、9割方の人が、「憲法の文言上許されない政策」でも政府はときに実施すべきだと、大なり小なり考えていることになる。状況に応じて、違憲立法を柔軟に(?)認めてよいというのである。

 今回の調査は、無作為標本(有権者全体からランダムに回答者を選び出して作った標本)に対して行われたものではないから、ここから、日本人の何割が立憲主義的かといった推測を直接することはできない。しかし、オンライン調査にモニター登録する人が、そうでない人に比べて著しく非立憲主義的ということでない限り――そのような証拠はまったくない――、今日の日本社会に非立憲主義者がきわめて大量に存在することは認めざるをえない。

 以上の調査結果は、法学部で学んだ(そして法学部で教えている)筆者および筆者の周辺では非常に衝撃的に受け止められた。筆者は、「A寄り」がそれなりに存在するのではとの疑念を持って調査してみたのであるが、こちらが多数派になるとはまったく想定していなかった。しかし、ここまで「A寄り」の人が多いとなると、我々の驚きが本誌の読者にどれほど共感してもらえるのかという点においても、不安に感じざるをえない[4]。

 なお、今回の調査結果が的外れでないことを示す傍証として、無作為標本を用いた既存の世論調査を一つ挙げておこう[5]。

 読売新聞社が2018年3~4月に行った調査であるが、ここでは「あなたが考える憲法のあり方は、どちらのイメージが強いですか」と問い、「(A)国のかたちや理想の姿を語るもの」、「(B)国家権力を制限するルール」のいずれかを二択で選ばせている[6]。その結果は、Aが60%、Bが37%であった。先にふれた枝野の議論で言えば、「憲法の定義」を理解していないのは、安倍首相のみならず、有権者の過半数もだということになりそうである。

 立憲主義の概念・考え方は、今日、義務教育で一通り教えられている。しかし、日本人の血肉になっているとはとても言えない。憲法典の具体的内容をよく知らない人が多い、との指摘は昔からある(事実である)。しかし、多くの日本人にとって、問題はそれ以前の次元にあると言わなければならない。

[註]
[1]戦後初期には、天皇制廃止など左派の改憲論もそれなりに有力な立場として唱えられていた。例えば、日本共産党が新憲法の内容を当初、真正面から否定していた点については、境家史郎『憲法と世論―戦後日本人は憲法とどう向き合ってきたのか』筑摩選書、2017年、第2章を参照。
[2]本調査は、JSPS科研費20K01479の補助を受け、東京大学倫理審査専門委員会の承認を得て実施された。
[3]衆議院本会議2018年1月24日。
[4]参考までに、この質問を筆者のゼミ生(東京大学法学部生)17名にしてみたところ、「Aに近い」が1名、「どちらかと言えばAに近い」が3名、「どちらかと言えばBに近い」が8名、「Bに近い」が5名という結果であった。「A寄り」が24%、「B寄り」が76%である。ケース数が少ないのであくまで参考値であるが、日本社会で最も法学リテラシーが高いと見られる集団において、「B寄り」の見方が圧倒的多数であった点に留意したい。
[5]多くの日本人が非立憲主義的であることを示す世論調査の他の事例については、境家史郎「日本人の憲法観」『法律時報』90巻9号、2018年、131―135頁を参照。
[6]『読売新聞』2018年4月30日付。この質問形式は、ほとんど我々の調査と同じであるが、これは我々が読売調査を参考にしたので当然である。ただし、我々の用いた文言の方が、2つのイメージの背反性が回答者に伝わりやすく、非立憲主義者のあぶり出しにより適していると思われる。

境家史郎
〔さかいやしろう〕
1978年大阪府生まれ。2002年東京大学法学部卒業。08年東京大学博士号(法学)取得。東京大学准教授、首都大学東京教授などを経て20年11月より現職。専門は日本政治。著書に『憲法と世論』、共著に『政治学の方法』『政治参加論』がある。
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