御厨貴×鈴木一人×松川るい 「想定外」ではすまされない! 戦争・疫病・自然災害 「危機対応」への喫緊の課題

御厨貴(東京大学先端科学技術研究センターフェロー)×鈴木一人(東京大学公共政策大学院教授)×松川るい(参議院議員)

全体最適よりも優先した部分最適

御厨 2016年4月の熊本地震は、東日本大震災の記憶も新しい時に発生したこともあり、行政の対応はかなりよかった。特に蒲島(かばしま)郁夫知事が、阪神・淡路大震災や東日本大震災の復興に携わった官僚や、熊本県庁に出向中だった官僚を集めて対応したため、スムーズに行動できていました。さらに蒲島知事が偉かったのは、自力で「くまもと復旧・復興有識者会議」を作ったことです。これがその後、20年7月に起きた豪雨による大規模自然災害にも力を発揮しました。

 また、デジタルアーカイブの時代になってきて、阪神・淡路大震災、東日本大震災、そして熊本地震と、時を経るごとに被災状況を記録した公文書や関連資料が集まりやすく、確認しやすくなっています。日本人は勉強して型通りの問題を解くのはうまいので、それらの蓄積を使い、地震などの自然災害に関してはかなり対処できていると思います。

 ただ、そこにも穴がある。南海トラフ地震は、東日本大震災を上回る被災規模が予想されているので、例えば高知県でも各地に津波避難タワーを作りました。ところが避難タワーに行ってみると、入り口に南京錠が掛かっていて入れないのです。というのも、ゴミを捨てる人がいるから鍵を掛けているのだと。それでは不法投棄対策にはなるけれど、人も入れないから助かりません。日本の行政はこうした矛盾に気づきながらも、そのまま進んでいくところがあります。

鈴木 まさに「部分最適」の問題だと思います。日本は全体最適よりも、ある瞬間、ある部分がよければよいと、部分最適を優先しがちです。だから先ほどのゴミのように、目の前の問題を解決する答えだけが出てきて、震災や津波が起こった時の被害全体を考えないわけです。

 型があれば勉強するというのも、部分最適の一つです。ある特定の部分の問題は解くことができても、全体像を有機的に考えてバランスを取ったり、優先順位をつけたりすることが苦手。よほどしっかりしたリーダーでないと、全体最適が達成できません。

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