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御厨貴×鈴木一人×松川るい 「想定外」ではすまされない! 戦争・疫病・自然災害 「危機対応」への喫緊の課題

御厨貴(東京大学先端科学技術研究センターフェロー)×鈴木一人(東京大学公共政策大学院教授)×松川るい(参議院議員)
鈴木一人氏(左)×御厨貴氏(中央)×松川るい氏(右)
 日本は「平時」の運営は得意だが、「有事」の対応がうまくできない――。東日本大震災やこのコロナ禍で、多くの人が噛みしめてきた思いではないだろうか。東アジアの安保環境も緊迫する今、日本は有事への万全の備えができているだろうか? 御厨貴・東大名誉教授、鈴木一人・東大教授、松川るい・参議院議員が激論を交わした。冒頭の震災対応を紹介する。
(『中央公論』2022年4月号より抜粋)

全く対策できていなかった東日本大震災

御厨 日本の危機対応について議論するにあたって、まずは私が「東日本大震災復興構想会議」の議長代理を務めた時に見聞したことをお話ししたいと思います。

 あの時、菅直人総理の対応を見ていて感じたのは、「これは何の心構えもなかったな」ということでした。菅総理は、議長の五百旗頭(いおきべ)真さんと私に向かって、最初に「全てをお任せします」とおっしゃった。この会議は、諮問されたことに答える場として設けられているのだから、最終的な決断をするのは総理です。ところが菅総理の関心はいつのまにか自然エネルギーの問題に移り、復興構想会議には興味がなくなってしまった。つまり菅総理には、東日本大震災をどう収拾するかの考えがなかったのです。

 もう一つ、震災直後に官邸で行われた緊急会議に出席した官僚たちに聞くに、官邸の地下は電気が切れて真っ暗、携帯電話も繋がらない中で、各省から人員だけが集められたそうです。官邸地下から再び各省へ指令を伝達するわけですが、そんな状況のために、最初は官僚が各省まで走って情報を伝えていました。そして、会議という名はついているものの、みんな立って情報交換するのみなので、ろくな記録も残っていなかった。

 この二つの事例だけでも、この国が、東日本大震災のような危機に対応するための準備や対策が全くできていなかったことがわかります。

鈴木 私も一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)の「福島原発事故10年検証委員会」に参加し、震災直後の官邸対応について調査しましたが、御厨先生と同じ印象を受けました。特に原発は、地震でも倒れない建物を造ることには力を入れてきたが、津波についての準備は全くできていなかった。

 それ以上に問題なのは、原発事故は起こらないという前提で全てのシステムが成り立っていたことです。予防するから事故は起こらない。だから、事故が起こった場合のことは考えないという思考回路になっている。なまじ事故の準備をしようとすると、事故はないと言っているのに準備をするのはおかしいと批判される。その批判も日本の特徴で、リスクがないことが正解で、リスクがわずかでもあると全てが駄目という話になってしまう。

 結果的に、事故は起こらないというフィクションを作り続け、事故の準備はしない。事故が起こると何の準備もない状態から全てがスタートすることになったわけです。

 ただし、震災に関しては、阪神・淡路大震災の経験があったので、その時に駄目だったことについては修正されていました。けれども、あくまでも阪神・淡路の経験から想定される範囲内であり、それ以外の部分については「想定外」になるので準備ができていませんでした。こうした日本特有のロジックが有事の際の弱さに繋がっていると思います。

松川 ゼロリスク、あるいは想定外の大きな危機は起こらないという前提は、この国のいろいろなところに通底していると思います。

 私が外務省に勤めていた10年ほど前、韓国駐在時の経験をお話ししますと、日本製品はなかなか壊れませんが、韓国の家電やパソコンは壊れることを前提にしているので、壊れたら電話一本かければ、それこそ数時間内にアフターサービスの担当者が飛んでくる。つまり、壊れる前提でサービスや修理のシステムが整っていました。多くの国ではそもそも物事はパーフェクトにはいかないという前提で対処する文化がありますが、日本には良くも悪くもそれがありません。

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