尾身 茂 我々専門家は、言うべきことは言う「オネストブローカー」
尾身 茂(新型コロナウイルス感染症対策分科会会長) 聞き手:牧原 出(東京大学先端科学技術研究センター教授)
新たな局面に入りつつある日本のコロナ対策。新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長に、専門家間での意見の相違について、専門家と政治の関係について、そして日本式コロナ対策の特徴などを、東京大学先端科学技術研究センターの牧原出教授が聞いた。
(『中央公論』2022年7月号より抜粋)
(『中央公論』2022年7月号より抜粋)
分科会内での意見の相違
牧原 新型コロナウイルス感染症の対策について専門家の意見が割れることが増えてきました。今年2月18日に政府の基本的対処方針分科会が、京阪神など17道府県におけるまん延防止等重点措置の延長を決めましたが、その際初めて全会一致ではなく、2人の委員から反対意見が出されました。コンセンサスが得られにくい状況にあるのでしょうか。
尾身 確かに、今年の2月以前は、分科会の医療界と経済界の委員の間でもコンセンサスが得られました。ところが、感染力は強いが重症化リスクは低いオミクロン株が主流になり、事態が変わりました。意見や価値観、どこに重点を置くかの違いが委員の間に出てきたのです。
一方の意見は、オミクロン株は比較的軽症の患者が多いので、人々に行動制限を強いる必要がなくなったのではないかというものです。また、感染が広がったとしても、入院病床が逼迫していると知ると、多くの人が自ら判断して行動を抑制するようになる。これを「情報効果」と言うのですが、日本人はその傾向が強いので、法律を根拠としたまん延防止等重点措置など厳しい制限は不要ではないかとの見解です。
もう一方は、もう少し慎重な意見です。軽症患者は確かに多いかもしれないが、オミクロン株の致死率は季節性インフルエンザより高いという研究結果もあります。また、情報効果が出てくるのは医療逼迫が起きてからになります。実際、急激に感染者数が増えた第6波では医療逼迫が起きました。さらに、ウイルスは変化し続け不安定、しかも徐々にではなく、ジャンプするような変わり方です。薬へのアクセスもまだインフルエンザほどよくありません。対策を完全に緩めるのは時期尚早だとの見解です。