常見陽平「コロナ禍で変わった『働き方』を検証する」

常見陽平(千葉商科大学准教授)
常見陽平氏(撮影:大河内禎)
 政府が唱えていた「働き方改革」は、新型コロナの流行によって一気に進みました。しかし、リモートワークなどの「新しい働き方」に問題点はないのでしょうか。千葉商科大学准教授で働き方評論家でもある常見陽平さんと考えました。
(『中央公論』2023年2月号より)

「働き方改革」への大いなる違和感

 コロナ禍が約3年続く間に、日本ではリモートワークが急速に普及しました。それで「日本人の働き方が変わった」「通勤時間が減少したことで業務が効率化した」と言う人もいます。でもそれは本当でしょうか? 確かに良かった側面もありますが、それだけではないと思います。

 国は「働き方改革」という言葉を2016年頃から使っていて、実際「働き方改革関連法」が19年より順次施行されています。実はコロナ前から、国をあげて「日本人の働き方を変えよう」という流れになっていたのです。企業は黒字リストラを盛んに行い、なかには退職金を積み増して早期退職を促すところも出ていました。また、不採算事業を廃止・縮小して、成長分野に人や資金をつぎ込む企業もあり、人材の流動化が促されたのです。

 長時間労働の規制や、労働者が一定数有給休暇を取得することを使用者、つまり企業側の義務としました。リモートワークも、オフィスの効率化や通勤時間の見直しの流れで以前から進められていて、その総仕上げが20年、本来のオリンピックイヤーになるはずでした。でも、その記憶が曖昧になるくらい、コロナによるリモートワークの導入は急速でした。

 いずれにせよ「働き方を変えよう」という掛け声には、皆、おおむね賛同せざるを得ません。でも、なかには違和感を持った人もいたはずです。例えば、長時間労働をやめて余った時間は副業をしてもよいことになりましたが、実は本業に集中したほうがいいのではないかとか、リモートワークは本当に効率的なのかとか。さらに言えば、効率だけで仕事を考えていいのか、等々。

 ただ、そうした違和感を持っても、今はそれを口にしづらい雰囲気が蔓延しています。口にすると「今までの古い社会がいいのか」と責められたり、SNSやネットで炎上したりするからです。労働者自身の問題であるにもかかわらず、違和感を持っても口にしづらい──実はそのことこそ最大の問題だと思います。

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