小川淳也×千正康裕 元キャリア官僚から見る、霞が関の破綻

小川淳也(衆議院議員)×千正康裕(株式会社千正組代表)

与野党対立と官僚

小川 19年に私が国会で厚労省の統計不正を取り上げた時も、私が問題にしたのは官僚組織の腐敗というよりも、官僚の仕事を私的な都合でねじ曲げてしまう政治権力のほうだったんです。森友・加計学園問題などは氷山の一角であって、総務省の行政文書一つとっても、官僚の皆さんの自尊心や誇りが踏みにじられ続けていることは明らかで、むしろ深刻化しているんじゃないかな。


千正 55年体制が長く続くなかで、与野党は政治的に戦ってはいても、馴れ合いの対立構造に安住していた面もあったと思うんですよ。それは政治と霞が関の関係でも同様だったと思うんですが、民主党が政権を奪うほど伸長する過程で、馴れ合いがガチンコの対立に変わった部分も大きかった。それはもちろん正しいことなのですが、ガチンコ度合いが増すにつれて官僚の負荷も増していったと言えるかもしれません。

 僕が官僚を辞めてからよくわかったのは、役人と政治家は実は別の人種だということですね。


小川 興味深い話ですが、それはどういうことですか?


千正 僕自身、役人をしている時はしょっちゅう政治家の皆さんと一緒に仕事をしていたので、何となく同じ志向の人たちだと思いこんでいました。役人にとってのお客様は、国民全員です。一部の人たち、特定の人たちに褒められようとは思っていない。それは政治家も同じだと思っていました。

 ところが役人を辞めてから、政治家の人たちと利害を挟まず本音で話す機会が増えると、違った一面が見えてきたんです。言うまでもなく政治家は選挙に落ちたらただの人で、選挙区での支持率を高く保つ戦いをずっと強いられている。ビジネスの世界よりもはるかに苛烈な競争のなかで生きている彼らは、公人というよりも、いわばスーパー民間人なんですよね。権力を自分への支持に、あるいは競争相手への不支持につながるように行使する。極端な場合、ねじ曲がったことや筋の通らないことを、トップダウンで官僚たちに下ろす場合もある。官僚たちからすれば、自分で決めたことでも正しいと思っていることでもないんだけれど、実行せざるを得ない。そして追及される場面では自分たちが矢面に立たされる。そんな苦しい状況に長く置かれているのだと思います。


小川 なるほど。与野党対立が激しくなると同時に、官僚の国会待機が増えるという物理的な抑圧もありますよね。


千正 それもあります。大臣の答弁を作る官僚の負担を考慮して、質疑のある委員会などの2日前までには政府に質問通告を行うという「2日前ルール」も、守られていませんからね。深夜や休日に通告してくる議員も、いまだに存在している現実があります。


小川 僕は議員になって17年たちますが、日が暮れてから質問通告したことは、一度もないんですよ。


千正 それは素晴らしい。そういう議員ばかりになれば。(笑)


小川 野党議員のなかには、「深夜にまで質問通告があることで、役所にプレッシャーを与えているんだ」と、さも真っ当な戦術であるかのように言う人もいるんですが、僕に言わせれば愚かな話です。官僚だって自分の人生があって、家族がある。彼らを深夜まで国会に縛り付けることは、断じて戦いなんかじゃない。官僚は敵じゃないんです。民主党政権はいくつか致命的な失敗をしたと思っているけれど、官僚を敵視したこともその一つだったと僕は思っています。

(続きは『中央公論』2023年5月号で)

構成:柳瀬 徹

中央公論 2023年5月号
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小川淳也(衆議院議員)×千正康裕(株式会社千正組代表)
◆小川淳也〔おがわじゅんや〕
1971年香川県生まれ。東京大学法学部卒業。自治省(現総務省)、総務大臣政務官などを経て、現職。単著に『日本改革原案』、共著に『本当に君は総理大臣になれないのか』『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた』など。

◆千正康裕〔せんしょうやすひろ〕
1975年千葉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。2001年厚生労働省入省、19年退官。コンサルティング会社、株式会社千正組を設立。慶應義塾大学総合政策学部特別招聘准教授。著書に『ブラック霞が関』『官邸は今日も間違える』がある。
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