増田寛也×砂原庸介 「地方消滅」予測から10年――コロナ後の首都圏回帰

増田寛也(日本郵政株式会社社長)×砂原庸介(神戸大学教授)

地方自治体同士の人口の奪い合い

──第2次安倍政権の看板政策であった「地方創生」で行われてきた女性活躍推進法などの施策に対して、どう評価されますか。


増田 安倍政権が打ち出した政策の期間中には、女性や高齢者の就業者数、就業率が上昇しましたし、就業年齢が延びました。

 ただし、その内容を見ると非正規雇用が非常に多い。正規雇用につながらないかたちで雇用数が増えたので、そこをどう評価するかは冷静に考える必要があると思います。

 日本の人口が減少しているため、産業界からの強い要請を受けての女性活躍推進でした。本筋からいえば正規雇用を増やさなければいけなかったのに、そこへの施策は薄かったのではないでしょうか。


砂原 安倍政権において、地方での人口減少への対応として展開されてきた施策に、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」がありました。

 この総合戦略はパッケージとしていろいろなことを提言していますし、さまざまなKPI(重要業績評価指標)を盛り込みました。

 たとえば、女性の雇用などの数値を伸ばそうとしたわけですが、結局のところ、実質的にKPIとして活用されたのは人口数以外にはなかったのではないでしょうか。

 自治体が見ていたのは人口数ばかりで、それを増やすことが目標のすべてになってしまった。人口減少は日本全国で進んでいますから、自分の自治体の人口増のためには他と奪い合いをするしかなくなった。隣の自治体が子供への優遇政策を行うと、財政的に厳しくても同じような政策をとらざるを得なくなる。その典型が子供の医療費の無料化のような政策です。

 しかしその効果は本当のところよくわからない。たとえば、子育て支援に熱心と言われる兵庫県明石市と神戸市周辺の自治体を比較してみると、子育て支援を始めた頃から人が増える傾向にあるのは確かです。

 他方で、神戸近郊と同じように東京近郊のベッドタウンであるつくば市や流山市と比べると、明石市の人口の伸びは大きく変わりません。

 つまり、条件によって人が増える自治体は増えるし、増えない自治体は増えないとも言える。ある政策にどの程度の効果があるのかわからなくても、自治体としてはやらざるを得ない。なぜなら他の自治体がやっているからです。

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