北岡伸一×水鳥真美 日本は安保理改革の旗手になれ――危機に立つ国連と多国間主義

北岡伸一(東京大学名誉教授)×水鳥真美(国連事務総長特別代表(防災担当))

安保理改革は進むか

──国連で特に問題とされているのが安保理の機能不全です。改革の余地はあるのでしょうか。


北岡 安保理改革には近年少し前進がありました。2017年にアントニオ・グテーレスさんが事務総長に選ばれたときに、安保理改革に関する討論会を開きました。それまでどの国がどういう改革案を持っているか公然と議論する場がなかったからです。

 もう一つの前進は、昨年4月に、リヒテンシュタイン決議が可決されたことです。それにより、常任理事国は拒否権行使の理由の説明を求められるようになりました。もちろんロシアは大した説明はせず、改革の本丸には届いていませんが。


水鳥 リヒテンシュタイン決議が、冷戦時代のような無制限な拒否権行使の歯止めになったことは、理想からは程遠いとはいえ前進ですよね。

 それでも1990~2000年代に何度か訪れた安保理改革の大きな波のように、改革の機運が盛り上がるかというと、なかなか難しいと感じています。現在、国連加盟国は193ヵ国あり、今までは南と北、発展途上国と先進国に乱暴に分けられていました。最近注目を集める「グローバル・サウス」にしても、最貧国や小規模島嶼国、新興国など様々です。国連のどの機能を強化すべきかの意見は各国で異なると思います。

 安保理は今回のウクライナ戦争に対しては機能不全ではありますが、全く機能していないわけではありません。昨年にはミャンマーのクーデターに関する非難決議が通り、今年のシリアの人道支援のための決議も、2回目はロシアが拒否権を行使して暗礁に乗り上げたものの、1回目は通りました。それでも国際社会がまとまって安保理改革に取り組めるかは、まだ見通せない状況です。


北岡 安保理改革の論点を整理すると、主に二つあります。一つは構成国の数をどうするかです。代表的な改革案として、04年にコフィー・アナン事務総長(当時)が設置した有識者会議「ハイレベル委員会」で提唱された、安保理を15ヵ国から24ヵ国にする二つの案があります。モデルAは、常任理事国を6増の11ヵ国、非常任理事国を3増するものです。モデルBは常任理事国は増やさず、任期4年で再選可能な準常任理事国を8ヵ国新設し、非常任理事国を1増する内容です。その他にも、最近の『フォーリン・アフェアーズ』には、安保理に10年間の長期議席を20設けるという、モデルBに似た案が載りました。国連には西ヨーロッパ・その他、東ヨーロッパ、アジア太平洋、アフリカ、ラテンアメリカ・カリブという五つの地域ブロックがあり、このブロックから人口とGDP(国内総生産)を基準に選挙なしで2ヵ国ずつ選び、10年後に見直そうという案です。

 もう一つの論点が拒否権です。そもそも拒否権という言葉は国連憲章にはありません。27条には安保理15ヵ国のうち9票、ただし五つの常任理事国の全ての同意(concurring votes)が必要だとしかない。今は棄権もありですが、常任理事国が1ヵ国でも反対したら通らないので、これを拒否権と呼んでいます。

 全国連加盟国を対象に匿名のアンケートで「拒否権を制限するべきか」と問えば、常任理事国以外はどの国も賛成するでしょう。もし決議案の可決には常任理事国のうち4ヵ国の同意が必要、つまり常任理事国1ヵ国の反対では拒否権にならないという案をどこかの国が出して匿名投票を実施すれば、圧倒的多数の支持を得るように思います。


水鳥 国連発足時の1945年から様変わりした国際社会の現実を反映しながら、構成国の数と拒否権の双方で多くの国が賛成でき、かつ改革後にちゃんと機能する案を考えるのは至難の業です。安保理構成国が15ヵ国から増えたとしても、実際に機能するのか。常任理事国が拒否権を持ち続けるとなると、説明責任があるとはいえ、いざとなればどの国も伝家の宝刀を抜くのは明らかです。

 しかし、議論しなければ何事も進まないですし、危機に瀕しないと改革が行われないのは常だと思いますので、今回の戦争を議論のきっかけにすべきだと思います。


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北岡伸一(東京大学名誉教授)×水鳥真美(国連事務総長特別代表(防災担当))
◆北岡伸一〔きたおかしんいち〕
1948年奈良県生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。法学博士。専門は日本政治外交史。立教大学教授、東京大学教授、国連大使、JICA(国際協力機構)理事長を歴任。有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」座長代理を務めるなど、外交・安全保障の重要政策に関与してきた。現在JICA特別顧問。

◆水鳥真美〔みずとりまみ〕
1960年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業後、外務省入省。スペイン外交官学校で国際関係ディプロマを取得。外務省で総合外交政策局安全保障政策課長、同局国連政策課長などの要職を歴任後、退職。2011年から英国イースト・アングリア大学付属セインズベリー日本藝術研究所統括役所長を務めたのち、18年から現職。
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