テイラー・スウィフトは救世主なのか
辰巳JUNK(ライター)
(『中央公論』2024年5月号より抜粋)
「テイラー・スウィフトを大統領に!」「半分冗談だけど半分は本当だ。彼女は、トランプとバイデンよりも人々を団結させられる」。この提言をしたのは、狂信的なファンではない。米財界で大きな影響力を持つヘッジファンドの帝王レイ・ダリオだ。
アメリカでは、人気歌手テイラー・スウィフトが「大統領選挙を変える」存在として大真面目に論じられている。もちろん、ツアーや新作リリースに忙しい芸能人の出馬は現実的でない。政治関係者が議論しているのは、かつて民主党支持を表明した彼女が今回も投票を呼びかければ、たくさんのファンが動員されてジョー・バイデン大統領が有利になる、という見立てだ。
2023年にベストヒットツアー(「THE ERAS TOUR」)で史上最高の10億ドルを超える収益を達成したテイラーは「マイケル・ジャクソン以来の国民的スター」と評されるほどの人気を博しており、とくに若年女性に影響力がある。同年9月、バイデンの腹心であるカリフォルニア州知事ギャビン・ニューサムが記者の質問に答え、テイラーに民主党支持の公言を求めたほどだ。24年1月には、バイデン陣営がテイラーと連携する選挙運動を計画中だと『ニューヨーク・タイムズ』紙が報じている。もちろん、共和党派には大不評。ドナルド・トランプ前大統領も、在任中にテイラーにも利益をもたらす音楽著作権に関する法案を通した恩があると主張して、バイデンを支持するような不誠実なことをするはずがない、と牽制している。
たった一人の芸能人が大国の国政選挙のキーパーソンとして扱われるとは驚きだ。これには、アメリカ特有の芸能と政治の関係が絡んでいる。