テイラー・スウィフトは救世主なのか

辰巳JUNK(ライター)

ハリウッドスターの民主党支持

 前提から説明しよう。とくにバラク・オバマ政権(2009~17年)以降、アメリカの芸能界は民主党支持者ばかりになっている。

『ハリウッド・リポーター』誌の調査によると、2016年の大統領選挙から18年の中間選挙にかけての期間、ハリウッドのトップスターと業界幹部による政治献金先の99・7%が民主党関連だった。アメリカ政治が二大政党制であることを考えればかなりの偏りと言えるが、これはさほど不思議でもない。芸能ビジネスが盛んなカリフォルニアやニューヨークは、もともと民主党が強い「青い州」だ。マイノリティの人権を重視する民主党は都会や若年層で人気を集めるリベラルである一方、同性婚や人工妊娠中絶への反対が根強い共和党は地方やキリスト教福音派を基盤とする保守である。映画界や音楽界のスターが重視する客層は若年層であることが多く、共和党支持を表明すると、「差別主義者」としてイメージが悪化するリスクがある。

 若年女性やセクシュアルマイノリティに人気のある女性ポップ歌手の場合、特段リベラルであることが前提とされるような立場にある。これは二大政党のイベントの出演者を見ればわかる。

 16年大統領選挙において、民主党候補ヒラリー・クリントンの応援にかけつけたのはジェニファー・ロペスやケイティ・ペリー、ビヨンセ、レディー・ガガと、豪華な顔ぶれ。これに対して、選挙に勝った共和党トランプの大統領就任式で国歌を歌ったのは、ジャッキー・エヴァンコという当時10代の無名の女性歌手だった。就任式前日の就任記念コンサートでは、黒人歌手ジェニファー・ホリデイが出演依頼を受けていたようだが、それが報道されると「差別に加担している」としてバッシングされ、降板を発表するにいたった。ジェニファーの謝罪声明によると、党派によって分断された国民を音楽で団結させたかったものの、キャリアを支えてくれたLGBTコミュニティのことを考えるとキャンセルせざるをえないという思いにいたったという。

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