田中角栄、山口百恵はもう現れない――カリスマなき時代、政治も歌もチームで勝負

枝野幸男(衆議院議員)

購買力のある中年層が支えるブーム

――枝野さんは中学、高校と合唱部に所属し、趣味のカラオケでは最新の楽曲から昭和の歌謡曲まで幅広いレパートリーを歌いこなすことで知られています。


「ブギウギ」(歌手の笠置シヅ子をモデルにしたNHKの朝ドラ)で出てきた曲は、「ラッパと娘」以外は全部知っていました(笑)。淡谷のり子も東海林太郎も歌番組でリアルに歌っていて、僕は特に歌好きだったから、当時の歌をそれなりに覚えているのです。


――昭和歌謡で最も印象に残る歌手はどなたでしょうか。


 自分がファンだったこともありますが、戦後の昭和を象徴する歌手と言えば、やはり山口百恵だと思います。カリスマになり、カリスマのまま去っていった。


――今、昭和を知らない若い世代からも昭和の歌謡曲が人気を集めていることについて、どう思われますか。


 今の世代はJ-POPと呼びますが、これも歌謡曲とイコールととらえていいと思います。例えばYOASOBIの楽曲「アイドル」のサビは、日本の伝統的な「ヨナ抜き音階」で作られています。テンポが速くなる、リズムも細かくなるといった変化はあるにせよ、音楽の旋律のパターンや、そこに乗せる歌詞のテーマは無限にあるわけではないので、ぐるっと回って戻ってくる。松田聖子、中森明菜、おニャン子クラブを知らない若い世代は、それを全く新しいものとして受け止めている。平成から令和となり、昭和との時間が空いたからこそ、一層新鮮に感じるのではないでしょうか。

 ただ、流行を生み出す主体は分散していて、テレビメディアになると若い人より、いまだに私らの世代の動向に大きく左右される。朝ドラ「あまちゃん」がヒットしたのは、(主人公の母親を演じた)小泉今日子のアイドル全盛期を知っている層が「面白い」と思ったからでしょう。

 AKB48の生みの親である秋元康のターゲットも明らかに中年層です。懐かしさを感じる音楽に乗せて若い子を売り出し、若い時にはレコードをなかなか買えなかったけれど今は購買力のある中年層に、握手券付きで関連商品を買ってもらうというビジネスで成功をおさめました。

 若い人は今まで知らなかったものとして、また、一定のお金を持っている中年層は懐かしく入りやすいジャンルとして、昭和が受けているのでしょう。

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