田中角栄、山口百恵はもう現れない――カリスマなき時代、政治も歌もチームで勝負

枝野幸男(衆議院議員)

個のパワーが落ちたのに

――1980年代のアイドルはソロが主流でしたが、令和はグループの活動が目立ちます。


 個のパワーがやはり落ちているのです。どの世界でも個が弱くなれば、集団になるのです。

 歌の世界で言えばかつての美空ひばり、俳優では石原裕次郎のような「ダントツ」がいない。今の時代にこんなことを言うと、「私の『推し』がダントツ」と反論したくなる人もいるかもしれませんが、裕次郎らはあの時代の誰もが認める「別格」だったと思うんですよね。

 さきほど触れたYOASOBIは、令和という時代を象徴する存在になる可能性はあるとは思いますが、それでも山口百恵のような圧倒的なカリスマスター、唯一無二の存在になるかどうかはまだわかりません。

 これは良くも悪くも、社会の大衆化の影響だと私は思います。かつての映画俳優は素顔を見せないことが可能でしたが、今のタレントはプライベートから何からすべて暴かれる。芸が図抜けていれば他は全部許されることにはなりません。

 実は政治家も同じです。私は93年に始まる政治改革は、政治資金規正法の改正によって昔のように派閥の親分が何億という金を個人で集めてばらまくようなことができない仕組みを作った点で、成功だと思っています。かつてのロッキード事件は「田中角栄の事件」でしたが、今回の自民党派閥の政治資金規正法違反事件は「みんなの事件」です。昭和から令和の間に、歌の世界でトップアイドルが松田聖子から乃木坂46に代わったことと、政界で田中角栄個人の疑獄が安倍派全体の事件になったことは、実はパラレルです。

 それなのに、政治の世界にはいまだに英雄待望論がある。いつかヒーローが現れ、汚い政治を全部きれいにしてほしいというのは、時代のニーズに合わない、ないものねだりだと思っています。SNSの影響でフェイクニュースや陰謀論が目立つとはいえ、有権者のリテラシーは全体として高くなっており、厳しい目で政治を見つめている。社会が複雑化すると政治も複雑化して、角栄さんの「日本列島改造」、池田勇人さんの「所得倍増」のような、万人が期待して心躍るような目標、スローガンは打ち出しにくいのです。

聞き手:五十嵐 文(本誌編集長)


(続きは『中央公論』2024年6号で)

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枝野幸男(衆議院議員)
〔えだのゆきお〕
1964年栃木県生まれ。東北大学法学部卒業。88年に司法試験に合格、弁護士に。93年に衆議院議員に初当選。民主党政権で官房長官、経済産業大臣などを歴任。2017年に立憲民主党を設立し代表に就任。現在、衆議院議員10期目。著書に『枝野ビジョン──支え合う日本』などがある。
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