安藤優子×中北浩爾「女性総理は自民党の救世主か」

安藤優子(キャスター/ジャーナリスト)×中北浩爾(中央大学教授)
中北浩爾氏(左)、安藤優子氏(右)
 岸田内閣の支持率が低迷する中、女性総理の待望論が囁かれている。果たしてそれが意味することとは。なぜ女性総理は一度も誕生しなかったのか。『自民党の女性認識』の著書がある安藤氏と、現代日本政治が専門の中北氏が論じる。
(『中央公論』2024年7月号より抜粋)

アウトサイダーが総理になる日

――4月28日に投開票が行われた衆議院議員補欠選挙で、自民党は現職議員の逮捕や裏金問題で出馬を断念した「不戦敗」を含め、3選挙区すべてで敗北しました。岸田文雄内閣の支持率も低迷を続ける中、ポスト岸田をめぐる動きも漏れ聞こえてきています。またここに来て、報道各社の世論調査では次期総理候補として、上川陽子外相が、石破茂元幹事長や小泉進次郎元環境相に次ぐ3位に急浮上しています。


中北 安藤さんは『自民党の女性認識』で、自民党が時に女性議員のクリーンさをイメージ戦略として利用しながら、政権および党運営の中心からは女性を排除してきた歴史的経緯を明らかにしつつ、上川さんや小池百合子東京都知事といった女性政治家のキャリアパスも分析しておられます。上川さんにはどのような印象をお持ちですか?


安藤 1月に麻生太郎副総裁が講演で「俺たちから見てても、このおばさんやるねえと思った」「そんなに美しい方とは言わんけれども」と外相としての上川さんのことを評して、良くも悪くも注目を集めてしまいましたね。麻生さんという人は誰かをストレートに褒める方ではないので、ある種の照れ隠しだったのだろうとは思いますが、まったくもって余計な発言でした。それに対して上川さんが「どのような声もありがたく受け止めている」と受け流したことが、「大人の対応だ」と評判になったり、「毅然と反論してほしかった」と失望を生んだりもしましたが、あれは男性社会で踏ん張ってキャリアを積んできた女性に典型的な態度だったと思います。

 私もマスコミ業界というゴリゴリの男性社会で生きてきた人間なので、「いちいち波風を立てる面倒くさい女」とみなされることでどれほど仕事がしにくくなるかは、骨身に沁みています。私は「ペット化」と呼んでいるのですが、表面的にはおじさんたちに尻尾をパタパタと振って可愛がってもらいながら実績を積んで、派閥のボスや財界の大物から一本釣りで候補者に引き上げられる、そのような来歴の女性議員はかなり多いと思います。

 ただ上川さんの場合、ペットになって可愛がられてという処世術とは、かなり異なるキャリアを積んでこられた方ですよね。


中北 2000年の衆院選の際に自民党の公認候補がいる静岡1区で出馬を強行して、党から除名され、苦しい選挙戦を制して初当選した後、復党しました。男性組織の壁を突破して国会議員の座をつかんだ気骨のある人です。


安藤 三菱総合研究所で研究員を務めた後、フルブライト奨学生としてハーバード大学ケネディ・スクールで学んで政治行政学修士号を取得し、民主党上院議員の政策スタッフを務めたりと、政治家になることをゴールに据えて着実にキャリアを積んできた方ですから、ちょっと容姿をネタにされたくらいではビクともしないのでしょう。


中北 安藤さんの著書では、大平正芳の「政党は大きなイエ」という発言を基に、自民党の体質を「イエ中心主義」と分析しています。その中では上川さんはアウトサイダーでしょうか?


安藤 アウトサイダーですね。


中北 女性であり、かつ世襲議員でもない、と。


安藤 スポーツ選手や芸能人、アナウンサーといったメディアで顔を売って引き上げられた人でもありませんから。麻生さんの発言がルッキズムの観点から批判されるのは当然ですが、上川さんにいち早くツバを付けて、自身がキングメーカーになろうとしているのではないかと疑いたくもなります。上川さんがこのまま誰のペットにもならないで、総理総裁まで上り詰めようとされるならば、私は内心では大応援団になってしまいますね。(笑)

 ただ、5月には静岡県知事選の応援演説での「うまずして何が女性か」発言がありました。ご本人は発言の真意とは違うとおっしゃっていますが、男性優位社会を実力でのし上がってきたという意識が、ごく普通の女性たちの感覚とのズレをどこかで生じさせていないかは、気になるところです。

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