安藤優子×中北浩爾「女性総理は自民党の救世主か」

安藤優子(キャスター/ジャーナリスト)×中北浩爾(中央大学教授)

「女性議員3割」の実現可能性

中北 岸田さんが党改革を公約にして2021年の総裁選で勝った後、自民党は「ガバナンスコード」を策定しました。私は外部有識者委員としてこれに関わり、出来上がって以降も、運用にあたるガバナンス委員会に参画しています。研究者として特定の政党色が付く懸念もありましたが、二つの理由から就任依頼を引き受けることにしました。

 一つは、今まさに岸田総理を窮地に立たせている「政治とカネ」の問題です。この問題は過去、自民党に大きなダメージを繰り返し与え、政権運営を停滞させる原因になってきました。国全体にとっても望ましくないので、「政治とカネ」の問題がなるべく起こらない仕組みを作りたいと思いました。

 もう一つは、安藤さんが言及なさっている、自民党に女性議員を増やすことです。この二つを内部から実現しようと考えて委員になり、しつこく発言してきました。


安藤 そんな経緯があったのですね。


中北 今回のパーティー券の裏金問題は、私にとって非常に残念です。女性議員についても、まだまだ不十分ですが、22年の参院選では自民党の比例代表の候補者の3割が女性になり、翌年には今後10年間で女性議員の比率を3割に引き上げる「基本計画」が、ガバナンスコードに基づいて作られました。

 ガバナンス委員会では遠慮なく発言してきましたが、それでも辞めさせられることはありませんでした。これはまさに安藤さんが経験されたキャッチ・オール・パーティーとしてのダイナミズムなんでしょうね。多様な意見を包摂し、内部で綱引きしながら少しずつ変化していく体質は、党首公選を公然と唱えた党員を除名処分にしてしまう共産党とは、対極にあるといえます。


安藤 私も選択的夫婦別姓議連で講演をしましたし、超党派フォーラムでも話をしました。茂木敏充幹事長が「女性議員3割は自民党が改革政党になれるかのメルクマール」と発言し、介護やベビーシッター、一時保育などの費用として新人衆院支部長に活動費100万円を支給すると明言したのも、おそらく本気でおっしゃったんだと思いますし、党内の共通認識にもなっていると感じます。

 選挙そのものが「三バン」を持つ男性現職に有利なシステムになっている中で「3割」を掲げるのは、名簿上の数合わせに過ぎないという批判があるのは当然ですし、このシステムを変えない限り本質的な改革にならないことにも同感ですが、一度でも名簿に載って選挙戦に晒されてみないと、女性候補者も戦い方がわからないという現実があります。だから「3割」が明言されたことは大きいと思っています。


中北 22年の参院選では自民党の当選者の20・6%が女性で、前回の17・5%から増加しました。比例代表の候補者の3割は、準備不足のまま数合わせで達成した部分が大きかったと思いますが、それでも「変わらなければ」という機運は間違いなくあります。


安藤 ただ、出馬した女性候補者からは、党からはまともに支援してもらえず、女性議員を増やす運動をしている民間団体からボランティアスタッフを出してもらったりしていたという話を聞きました。もちろん手厚い支援を受けた方もいるのですが、濃淡の差が相当にあるというのが実情で、そこの検証は必要かなと思っています。


中北 22年の参院選の比例代表に自民党から出馬して落選した英利(えり)アルフィヤさんが、翌年の衆院補選で千葉5区から出馬して当選しました。数合わせと見られた候補者であっても、一度出馬すると次に繋がるチャンスが生まれるということですね。10年間で3割という目標が党内で公式な目標になっている意味は、決して小さくはないのかなと思います。


安藤 ただ、2033年までに3割とすると、歩みは相当に遅い印象ではありますよね。


中北 その通りで、特に衆議院では達成は難しいと見ています。

(続きは『中央公論』2024年7号で)


構成:柳瀬 徹

中央公論 2024年7月号
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安藤優子(キャスター/ジャーナリスト)×中北浩爾(中央大学教授)
◆安藤優子〔あんどうゆうこ〕
1958年千葉県生まれ。上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科グローバル社会専攻博士後期課程満期退学。博士(グローバル社会学)。87年からキャスターとして活躍し、「FNNスーパーニュース」のメインキャスターなどを務める。著書に『自民党の女性認識』など。

◆中北浩爾〔なかきたこうじ〕
1968年三重県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院法学政治学研究科博士課程中途退学。博士(法学)。専門は日本政治外交史、現代日本政治論。著書に『現代日本の政党デモクラシー』『自民党──「一強」の実像』『自公政権とは何か』『日本共産党』など。
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