大座談会 消滅可能性自治体リスト、Z世代からの異論にすべて応えます
異論をどう受けとめたか
――本誌7月号に掲載した座談会「当事者不在の議論に異議あり!」では、能條さん、古井さんに加え、本日は急用でご欠席の大空幸星さんに、人口戦略会議が発表した「消滅可能性自治体」リストなどについて若い世代がどう考えているか率直に議論してもらいました。その最後に同会議副議長の増田さんとの対談の可能性について言及したところ、増田さんからもぜひ話したいとの回答をいただき、今回の座談会が実現しました。第三者として、世代間対立を乗り越える民主主義のあり方に詳しい宇野さんと、少子高齢化社会の格差問題に詳しい白波瀬さんにもお越しいただきました。
まずは、Z世代座談会を読んでの所感をうかがえますか。
増田 率直に、非常に面白く読みました。特に後半の、結婚や子どもを持つことに関する部分は「こういうふうに思っていらっしゃる若い人たちもいるんだな」と興味深かったです。新鮮な意見を聞いたな、と。
あらためての前提になりますが、人口減少問題が日本で議論されるようになったのはこの10年ぐらいのことです。2010年の国勢調査によって08年が人口のピークだったと分かって、そこから徐々に議題になってきた。具体的な議論のスタートとなるように、市町村における人口の将来動態を示して危機を伝えようと発表したのが10年前の「消滅可能性自治体」リストでした。
当時は過疎化する地方の話に注目が集まりましたが、今回は都市部を含めた地域特性を新たに加味して、自然減対策(出生率の向上)と社会減対策(人口流出の是正)を前提とした分析を行っています。「消滅可能性」という言葉の強さ、センセーショナルさが持つ危険性について座談会で指摘されていましたが、これは10年前もご批判をいただいたんですね。やはりそこはより強く意識しなければいけないな、とあらためて思いました。
宇野 私はお三方が言っていたことももっともだと思いました。人口戦略会議は民間団体ですからメンバー構成は自分たちで決めるものであって、そこに若い人が参加していないのは仕方ない部分もあります。ですが、若者がいないところで上の世代が「このままでは大変なことになるから、若者、特に女性は頑張ってください」と言うなら、違和感があるでしょう。特に若い世代にとっては「人口減少は危機である」というのはイメージしづらく、自分の問題には思えない。そうした状況に異議申し立てをされたのは理解できます。
ですが、今日この後の議論で「そうは言ってもやっぱり世代を超えて"私たち"の問題だから、一緒に考えていくしかない」という方向に話が進んでいくことを期待しています。
白波瀬 私は読んで驚きはありませんでした。なぜなら、同様の指摘はさまざまなところで繰り返されてきたはずだからです。
当事者である若い人がいないという指摘を受けて、考えるべきことは二つあると思うんですね。一つには、やはり人口戦略会議の発信の仕方については、申し訳ないですけどあまりお上手ではなかったと思います。さまざまなテーマがあっても、マスコミはセンセーショナルな言葉を引っ張ります。若い女性の流出・流入に関する部分が話題になったこともあり、女子学生から「私たちは東大に行っちゃいけないってこと?」と聞かれたんですよ。その意図はなくても、そう受けとめられる可能性をもっと考えるべきでした。
一方でもう一つには、若いお二人には厳しい言い方かもしれませんが、当事者が入ればそれですべて問題解決できるのか、という点です。もちろん当事者である若い女性の心情に対しては鈍感だったと思います。でも生物学的に女性だけが子どもを産めるのも事実。だから人口が増えるためにはどうするべきかを逆算して考えた結果、若年女性の人口に注目したのでしょうから、当事者がいたからといって変わったのか。とても難しい問題ですが、世代間の誤解をなくすことが大切だと思います。
――前回の座談会で特に疑問が呈されたのが、若者など当事者の不在でした。Z世代のお二方から、あらためてその違和感についてお話しいただけますか。
能條 そもそも私は、少子化は結果であって、それ自体を問題にする必要があるのか疑問を感じているので、もしかしたら議論がかみ合わないところがあるかもしれません。私は今26歳で、今回焦点を当てられた「20歳から39歳の女性」に該当します。リストを見て最初に抱いたのは「気持ち悪い」という印象でした。国家のためにこの年代の女性はこういう人生を歩むべきと言われているようで、「なんでそんなことを言われなきゃいけないんだ」と、率直に疑問でした。
計算してみたのですが、実務担当を除いた人口戦略会議のメンバーは平均年齢70・6歳、女性比率9・5%ですよね。若い人をもっと入れようという話にならなかったのはなぜなのかと単純に思いました。
古井 座談会でも話した通り、僕自身は妻と一緒に子どもを持つ選択をしましたし、能條さんともまた別の考え方があります。同世代の間でも意見は違うし、世代や地域が違えばなおのこと変わってくる。そんな中で人口の話をするときに大切なのは、三つのキーマンの心をどれぐらい動かせるかだと思うんですね。
まず一つ目は、政策決定者やメディア。世の中のルールや世論をつくっている人たちが議題にしなければ、議論は始まらない。これに関しては、今この場を持てていることも含めて、結果が出ていると僕は思います。
一方で、残る二つへの働きかけは足りていない気がします。キーマンの二つ目は地方の権力者です。「消滅可能性自治体」リストとは、要は「この街に住みたくない女性がこれだけいるぞ」ということを可視化したデータだと思います。これにいちばんショックを受けるべきなのは、その街を回している大人ですよね。ですが、その人たちが本当にシビアに受けとめているのか、疑問があります。
そして三つ目が、少子化を解決するための中心人物である若者。若者の間でも考え方のギャップがすごく大きく、親世代とも当然まったく違う。仮に実際に人口戦略会議に若者を入れてみたら、驚くぐらい話がまとまらないはずです。でも多分それこそがリアルなんです。
三つのキーマンに自分事としてとらえてもらうためのメッセージの出し方を考えるうえでも、その場に当事者がいることは大きいはずです。
(中央公論11月号では、この後も「消滅可能性自治体」リストや人口減少に関する世代間の認識のギャップをどうすれば埋められるか、本音で議論している。)
構成:斎藤 岬
1951年東京都生まれ。東京大学法学部卒業。77年建設省(現・国土交通省)入省。岩手県知事、総務大臣などを歴任し、2020年より現職。
◆宇野重規〔うのしげき〕
1967年東京都生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。専門は政治思想史、政治哲学。『実験の民主主義』など著書多数。
◆白波瀬佐和子〔しらはせさわこ〕
1958年京都府生まれ。オックスフォード大学にて博士号(社会学)取得。専攻は社会階層論。著書に『生き方の不平等』(岩波新書)など。
◆能條桃子〔のうじょうももこ〕
1998年神奈川県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了。日本のU30世代の政治参加を促進する「NO YOUTH NO JAPAN」を設立し、代表理事を務める。
◆古井康介〔ふるいこうすけ〕
1995年富山県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。2017年に株式会社POTETO Media設立。日本ユースリーダー協会「若者力大賞」受賞(2021年)。