安倍政権の7年8カ月を支えた首相秘書官が今こそ明かす「強い官邸」の作り方、そして財務省へのエール
今井尚哉(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)×牧原 出(東京大学先端科学技術研究センター教授)
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「官邸主導」でさまざまな政策を推進した第2次安倍晋三政権が終わって早5年。現在の石破茂政権は少数与党に陥り、政策の実現が不透明になっている。安倍政権で「官邸官僚」の中心的存在として辣腕を振るった今井尚哉・元首相秘書官に、官邸機能研究の第一人者である東京大学の牧原出教授が迫り、官邸運営の秘訣やさまざまな政治秘話を聞き出す。
(『中央公論』2025年3月号より抜粋)
(『中央公論』2025年3月号より抜粋)
牧原 第1次と第2次安倍晋三政権をいずれも首相秘書官として支えられた今井さんに、お聞きしたいことは山ほどあります。そこで私は訊き役に徹して、今井さんの考える「官僚論」を伺いたいと思います。歴代最長となった第2次安倍政権では「安倍一強」と評される政治状況が生まれましたが、あれは実質的には「今井一強」だったのではないかと。
今井 いやいや。もう何を言っているんですか。(笑)
安倍政権が官邸主導で霞が関を支配して、官僚たちが窮屈な思いをしているという批判は何度も耳にしてきましたし、名指しされた身としてはずいぶん悩みましたが、それでも「霞が関支配」なんて全然ピンとこなかったんです。
だいたい私が直接関わったのは平和安全法制や特定秘密保護法といった、安倍さんの宿願であった「戦後レジームからの脱却」に関する政策が主で、その他はそれぞれの所轄官庁から出向してきた秘書官たちとチームを組んで分担して運営していましたから、私には見えていない部分が大半なんです。
牧原 なるほど。そのあたりは今井さんが官僚として経験した2001年の中央省庁再編とも関わってくるのかなと思いますが、再編以前のこともお聞きできれば何よりです。
今井 承知しました。私はいまでも経産省を「通産省」、財務省を「大蔵省」と呼んでしまう癖が抜けず、安倍さんにもよく「今井さんはいまだに『大蔵省』だから困っちゃうね」と笑われていました。今日もそれで通すことをお許しください。