安倍政権の7年8カ月を支えた首相秘書官が今こそ明かす「強い官邸」の作り方、そして財務省へのエール
今井尚哉(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)×牧原 出(東京大学先端科学技術研究センター教授)
族議員の凄みを知る
牧原 当時は日米貿易摩擦の時代で、通商交渉も大変だったでしょうね。
今井 エネルギーはもちろん、航空機も半導体も、すべてがアメリカとの対決でした。彼らは膨大なデータを揃えて、分厚いファイルをドンと積んで脅してくる。それを論破するための準備を何日も徹夜でしなければならないわけですが、それはむしろ誇りでしたね。
エネルギー関連では石油産業の構造改革や、石油製品の輸入自由化もやりました。政策決定では、とにかく細部に悪魔が宿ります。思わぬところに落とし穴があって、大変な事態を招きかねないから、生産から輸送まで現場を熟知していないとダメなんですね。だから徹底的に業界と議論して、ホルムズ海峡が封鎖された場合などのシミュレーションを綿密にしていました。
自由化が実現できたのは、1993年に細川護熙政権が成立して、自民党が下野したからです。いわゆる商工族の代表格で、宇野宗佑内閣では通産大臣も務められた梶山静六先生に「自由化します」と説明に行くと「貴様、俺達が与党に復権したらただちにクビだ!」と怒鳴られたこともありました。私は政策に自信があったので、「どうぞ」と申し上げました。生意気な言い方ですが、橋本龍太郎や梶山静六が何を言ってきても役人が「それは違います」と言える、そんな時代でした。
とはいえ族議員と呼ばれる先生方も、非常に勉強していらっしゃいましたし、末端官僚の言うことにも、真摯に耳を傾けてくれました。政治家と官僚は補完関係で、かつ緊張関係にあるんです。どちらがより国民の方を向いているかという競争なんですよね。