杉山 慎 南極の氷が融けると世界はどうなるのか?【上】

――気候変動による氷床融解のリスク
杉山 慎(北海道大学教授)

眞鍋淑郎氏のノーベル賞受賞が意味すること

 繰り返される豪雨災害によって、気候変動による「危機」が私たちの身近に迫っていることを感じる。地球科学の研究者である私にとっても、「研究テーマ」であった気候変動が「社会の重要課題」に姿を変えていく様子に戸惑いを感じるほどだ。

世界が新型コロナウイルスに翻弄されたこの2年間ですら、気候変動への関心が下火になることはなかった。むしろ、各地で報じられる洪水や地すべり、酷暑のオリンピックなどを通じて、気候に関心を持つ人がずいぶん増えたと思う。

 そんな中、2021年10月には、気候関連のニュースとしては珍しく、明るい話題があった。眞鍋淑郎氏のノーベル物理学賞受賞だ。眞鍋氏は、気候モデル開発の先駆者として、温室効果ガスが地球に与える影響の理解に決定的な役割を果たした人物である。

地球科学の研究者がノーベル賞を受けるのは珍しい。この栄誉ある賞に眞鍋氏の研究が選ばれたことは、気候変動の深刻さの反映であり、研究者以外にも強い問題意識が共有されている証拠であろう。

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