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杉山 慎 南極の氷が融けると世界はどうなるのか?【下】

――気候変動による氷床融解のリスク
杉山 慎(北海道大学教授)

過去に起きた大規模な氷床融解

 未来を考えるために、いったん歴史をさかのぼって、過去の海水準変動を見てみよう。古気候学の知見からは、氷床の脆弱さと海水準へのインパクトは明白である。ダイジェストで紹介すると、いまから12万年前、現在と近い水準にあった海面が下がりはじめ、その後の10万年間で100メートル以上低下した。そこから今度は上昇に転じ、直近の2万年間には100メートル以上海水準が上昇したことが明らかになっている。このあいだには、毎年1センチメートル以上の速度で海面が上がった時期もあった。

 氷河氷床の成長と融解は、こうした急激な海水準変動の主要因となった。約11万年前に氷期が始まって気温が下がり、各地で大きな氷床が成長した。そして、10万年間にわたる海水準低下が引き起こされた。その後2万年のあいだの急速な気候変動の結果、反対に氷床の多くが融けて消えてしまった。特に、北米大陸の北部を覆っていたローレンタイド氷床の融解が激しく、最近2万年間に起きた海水準上昇の原因の3分の2を占めている。同時期に南極氷床でも、海水準に換算して10メートルの氷が失われたとされる。

 過去80万年間にわたって、地球の気候はおおむね10万年周期の変動を繰り返してきた。ゆっくりと寒冷化が進んで氷河氷床が発達すると(氷期)、急に気温が上がって温暖な時期を迎え(間氷期)、やがてまた次の氷期が始まる。この「氷期・間氷期サイクル」の中で、私たちが暮らす現在は「間氷期」に当たる。とすれば、いまは氷床が減少しているとしても、今後気温が下がって氷床が拡大する時期に向かえば、問題はないのだろうか?

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