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「富岳」の正体① 富岳のAI処理能力でGAFAも追い越せる

松岡 聡×聞き手:小林雅一
松岡 聡氏(提供:理化学研究所)
 日本の理化学研究所(以下、理研)と富士通が共同開発した「富岳」は2020年、スパコンの計算速度等を競う世界ランキングで2期連続の王座に就いた。巨額の開発資金、そして大規模な設計チームの並み外れた頭脳と集中力が求められるスパコン・プロジェクトは、その国の経済力や科学技術力など国力を反映すると言われる。
 拙著『「スパコン富岳」後の日本』(中公新書ラクレ)で詳述したように、現在の先端スパコンは「ペタ(・フロップス)」から「エクサ」への世代交代を迎えている。「ペタ」は一秒間に「10の15乗(1000兆)」回の科学技術計算を実行できる能力。「エクサ」は「1000ペタ」を意味する。米中は現在このエクサ級のスパコン開発を進めているが難航している模様だ。
 この連載では、富岳の開発者や研究者などのキーパーソンに、富岳を成功に導いた要因、日本の産業界で富岳が果たす役割、米中とのハイテク競争、さらにスパコンの次に来る夢の超高速マシン「量子コンピュータ」など広範囲に取材した。熾烈な開発現場の生の声を8回にわたる連載でお届けする(月刊『中央公論』2020年11月号~21年2月号の連載を抜粋)。

リスクの高い開発

─富岳は理研と富士通の共同開発ですが、その仕様決めや開発について、どのような役割分担がなされましたか。

 理研は主に(富岳で使われる)アプリケーションを分析したり、マシン全体の仕様を決める等、包括的な枠組みを提示しました。一方、CPU(中央演算処理装置)の詳細な内部設計等は、この分野で長い経験と技術を蓄えた富士通の担当でした。

─約一〇年にも及ぶ開発期間中に何度か技術的な危機があったと聞きますが、具体的にはどうだったのでしょうか。

 スパコンの開発とは結局、(あらゆる要素の)トレードオフで決まります。大きなマシンに(して馬力を上げようと)すれば、電力やコストがオーバーしてしまう。たとえば、二〇一四年暮れに京の商用版のFX10の後継機である富士通FX100が発表されたとき、その電力効率のデータで富岳において必要な性能を満たそうとすると、京と比較して七倍も大きな電力を消費してしまう。もちろん、われわれも富士通もスパコンの省電力の研究をやっているので「こういう手を使えばいいんじゃないか」とさまざまな技術的検討を行い、そこからいろいろな方策を試して、最終的には富岳では電力効率の点では目標値を超えるものができました。

 それ以外でも目いっぱい能力を出そうとリスクの高い開発をしているので、実際に作ってみないとわからないことがいっぱいありました。双方で喧々諤々の議論をして、最終的にできたのが富岳というマシンというわけです。

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