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鈴木涼美 権力者が「わきまえる女」を好きなのは当たり前、女性たちの戦いの核心はどこにある(斎藤美奈子『モダンガール論』を読む)

第3回 100年越しの女の味付け(斎藤美奈子『モダンガール論』)
鈴木涼美

良妻賢母思想が女学校の進学率を上げた?

 こういったことを、変わらない男たちとか、改善しない社会というよりも、女たちのパワーと流行などに寄り添いながら、20世紀の100年かけて女たちがどうやって今の女たちになってきたのかを読み解いたのが、斎藤美奈子『モダンガール論』です。まさに20世紀が終わる2000年の終わりに刊行された本作は、「女の子には出世の道が二つある! 社長になるか社長夫人になるか、キャリアウーマンか専業主婦かー」という謳い文句が付けられていました。著者はあとがきで、「専業主婦と働く女性という二つの生き方は、どこでどう分岐したのだろう」と執筆の動機を解説しています。その問いを柱に、「女工」「女中」の時代から、先ほど触れた『青鞜』、高度経済成長期のOLやアグネス論争まで、女性たちが持っていた空気を100年分網羅して、軽快に紹介していきます。
 著者ならではの資料と視点から、一般的な歴史認識を裏切る箇所も多くあります。今日的な発想で良妻賢母思想というといかにも古き悪しき女性軽視の教育だと感じますが、著者は「じゃあなんで、これをさかいに女学校の進学率がめきめき上昇したわけ?」と問い、嫁にいくのに学問なんか必要ないと考えられていた時代、「良妻賢母思想は娘たちとその親に、進学の大義名分を与えたのだ」と見立てます。戦争を礼讃するなんていうのは今となっては保守反動の印象しかないが、著者は当時の女性誌などにある論調から「保守的で頑迷な昔風の女性ではなく、前向きで活発で近代的なセンスをもった女性ほど、戦争にはハマりやすいのですよ」という。そして戦争が主婦たちに「社会参加」や「自己実現」の機会を用意し、「男は戦争/女は労働」の戦時政策が女性の社会進出と婦人解放の幻想をつくり出した様子を描いてみせる。

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