AIはこの先も宮崎駿になれない。AIの書く脚本が人のものを上回ることができない「原理的」な理由とは
人工知能はウソをつく【第3回】
清水亮
急速に進化を続ける人工知能。日本政府も戦略会議を立ち上げ、その活用や対策について議論を始めた。一方、プログラマーで起業家、そして人工知能の開発を専門とする清水亮氏は「信頼に値するAIを生み出せるかどうかで私たちの未来は変わる」と喝破する。その清水さんによる人工知能についての連載、第三回のテーマは「AIは宮崎駿になれない」です。
とても奇妙な体験
改札を抜けると、所在ない表情の男が立っていた。手を振り、居酒屋に入る。
「あのあとどうした?」
男はレモンハイを傾けながら聞いてきた。
「一度寝て、変な夢をたくさん見ましたよ。それでまあ、ゴールデン街にも行けないじゃないですか」
男とその映画を見たのは丁度12時間前だ。公開初日。午前8時の回。
それはとても奇妙な体験だった。いつもと同じようでいて、全く違う。ジャンルも、設定も、キャラクターもわからないまま、全くの未知のまま「この物語はどうなってしまうんだ」「どこへ行くんだ」とハラハラしながら経緯を見守っていると、どんどん物語が展開し、気がつくと「パッ」と突き放されて、ストンと終わる。
映画を見たショックで、しばらく呆然としていた。半日は頭が働かず、残響のように様々な場面が頭に浮かんでは消える。とてつもない作品だった。
海を隔てたハリウッドでは、自分たちの仕事がAIに奪われるのではないかと本気で心配した脚本家たちがストライキを起こしている。これに俳優組合も加わり、せっかく「ミッションインポッシブル」の舞台挨拶に来るはずだったトム・クルーズも来日できなくなった。
能天気だな、と思う。