清水亮 今このタイミングでハッカソン開催を呼びかけたワケ。今回のGPT-4のアップデートが何をもたらすか、おそらく世界で誰もまだ分かっていない

人工知能はウソをつく【第7回】
清水亮

GPTと執筆

最新の大規模言語モデル、GPT-4。その開発元であるアメリカのOpenAI社が、11月6日に初の開発者向けイベントを開催した。その中で数々のアップデートが発表され、わずか1時間のキーノートの間に無数の新機能についての説明がなされた。

たとえば、これまで3万2千トークン(ここではだいたいの文字数と解釈していただきたい)しか扱えなかったのが、12万8千トークンまで扱えるように拡大された。12万字といえば、単行本一冊分の文章量である。

ちなみに筆者が7月に上梓した『教養としての生成AI』(幻冬舎新書)は、GPT-4を使って執筆を進めた。8千トークンしか扱えない初期バージョンのGPT-4を使って、少しずつ書いていったものをあとから修正したのだ。

そのため、最低でも15回はGPTを呼びださなければならなかったし、呼び出しただけで本が書けるほど、簡単でもなかった。

しかし今回のアップデートにより、あくまで原理上、たった一回の呼び出しで本一冊分の原稿を書いてもらえるようになったのだ。もちろんそれだけではない。本一冊分書けるということは、本一冊を読めるということでもある。

23611338_s.jpg二冊の本は、AIの使い方の順番を逆にしたことで、非常に対照的な性格を持つ本になった(写真提供:Photo AC)

なお8月に上梓した(このペースも我ながら異常だが)『検索から生成へ』(エムディエヌコーポレーション)の場合、『教養としての生成AI』とは逆のアプローチで執筆を進めた。

まず自分で構成を先に考え、その構成にあてはまるよう、必要な情報を自動的にインターネットから収集。執筆するプログラムを書き、要所要所に筆者が独自に体験したことや見聞きしたエピソードを付け加えていった。

この二冊の本は、AIの使い方の順番を逆にしたことで、非常に対照的な性格を持つ本になった。

前者は万人に読みやすいが、筆者の個性が薄い。後者は個性が前面に出ているが、誰にでも簡単に読める本にはなっていない。また前者は「依頼されて最新の内容を書いた本」で、後者は「依頼はされたがどちらかというと自分の書きたいテーマを書いた本」だったので、入れたい要素も多くなった。

書くのはどちらが大変だったかといえば、圧倒的に後者である。前者については、最初にひととおりの原稿が出来上がるまで、10時間くらいを要した。一方で、後者の原稿は苦心の挙句、二週間ほど掛かっている。しかもその確認と修正には、さらに時間が要された。

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