清水亮 企業の不正が世間を騒がせた今年「AI」を社長にしてみた。AIの経営判断は<残酷>だがほとんどの場合<人間よりマシ>である

人工知能はウソをつく【第8回】
清水亮

AIの経営判断はほとんどの場合「人間よりマシ」

なぜ、不正が横行する組織ができるのか。その原因のほとんどは「経営者の人間関係」に集約される。

それがもつれる、というより、むしろ積極的に結託することで、個人と個人の間に「貸し借り」の関係ができ、不正に加担せざるを得ない状況に追い込まれていく。つまり問題の根源は、「人間が経営しているから」に他ならない。

ふまえて、健全な経営をするために、本当に人間は必要なのだろうか? 

経営者を長年やってきた身としてあらためて考えれば、「ほとんどの経営的判断は人間がするべきではない」というのがその答えだ。なぜならば、"人間"という存在が、非常に不安定なものだから。

体調や機嫌が悪い日もあるし、浮かれて心ここにあらず、という日もあるだろう。そうしたなかで重要な判断を迫られ、常に正しい決断ができるとは全く思えない。

人間はとにかく弱い。そしてその弱さは、経営者になると"嫌"というほど実感させられる。

ある日には「社員から嫌われているな」と思う。全員がそう思っているわけではないとわかっていても、自然と会社に行く足取りは重くなる。社員と話す際、彼らの唇が緊張で震えていることに気づいて、申し訳なくなる。そんな毎日のなかで会社や社員の運命がかかった判断をしなければならない。

経営者に必要な判断とは、だいたいの場合「イエス or ノー」。そしてほとんどの返事は「イエス」である。なぜならば、部下が時間を使って作ってきた資料に「ノー」を突きつけるのは、しんどいからだ。

本当はもう少し練ってほしい、と思っても、嫌われる勇気が出なくて「イエス」と言ってしまったがために大変な事態が起きたりする。でもAIが社長だったら、条件がそろっていない案件には、しっかり「ノー」と判断するだろう。

AIに「決めさせる」のは簡単だ。乱数を使えばいい。どうせ人間の社長の判断だって、ほとんど乱数で決まってるようなものだし。さらにいえば、実際にその判断の結果がどうなったかを記録しておいて、ある程度貯まったらそのデータを「学習」させれば、その精度も上がっていく。AIはまさにそれを得意としている。

ともあれ、こうした日々で「自分がAIだったなら」と思ったのは一度どころではない。

AIが会社を大きくすることができるかはわからない。でも、潰れないように経営することはできるはずだ。AIが下す経営判断は冷酷かもしれないが、おそらくほとんどの場合において、人間よりもマシなものになるだろう。

そして、より優れた社長としてAIを育てたいのであれば、まず読ませるべき最初のデータセットは『論語と算盤』なのかもしれない。

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清水亮

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清水亮
新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。『教養としてのプログラミング講座』(中央公論新社)など著書多数。
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